バイオ医薬品とベンチャー【第1回】

2012/07/30 製剤

1.バイオ医薬品の品質
 
 バイオ医薬品に関して、バイオ概説第一回でご理解いただけたと思います。
 一言で、バイオ医薬品といいましても、その範囲が広いこともご理解いただけると思います。生物を用いて製造されたあるいは生物そのものを用いた医薬品であり、多くは一般の医薬品のような低分子化合物でないことが特徴です。
 
 成長ホルモンやインシュリンのようなタンパク質は、実験室の中で化学合成することが難しいのですが、生物を利用して作成すると比較的簡単に作成することが可能となります。
 しかしながら、生物は気まぐれで、第一回で説明いただいている生物種間の差(哺乳類と昆虫の細胞での差)のみならず、同じ生物種の同じ細胞株を使って作成した場合でも、全く同じものが作成されるわけではありません。そこに生物製剤の品質管理(QC)の難しさがあります。
 
 生物製剤の代表格、組み換えタンパク質の生成には、CHOというハムスター由来の細胞の中に目的とするたんぱく質の遺伝子を導入し、生産性の良い細胞を選別して生産をします。ここで問題になるのが、細胞も生物であると言うことです。生物は皆さんと同様で、気分が良い時や悪い時などいろいろな要因で行動が変わります。生産性(収量)が下がるだけであればよいのですが、製品の性質が変わってしまうことがあります。タンパク質についている糖鎖や二次修飾、場合によっては短いたんぱく質をたくさん作ってしまい活性が全くないということもあります。最近は、精製方法の進歩により、不純物除去が進んでいますが、糖鎖の修飾が少し違うとかアミノ酸配列が少し違う(活性には影響がない)などの場合、完全に除去することは不可能となっています。
 
 上記で述べました生産性の良い細胞を選別する際には、クローニングという手法を用いて、遺伝的には全く同じ細胞を選抜しています。にもかかわらず、生産の環境で品質の差が起きてしまいます。そこで、バイオ医薬品では生産の環境である製造工程をできるだけ統一して、品質の差が起きないように工夫しています。これをプロセス管理といいます。医薬品のGMPにおいて大切なプロセス管理ですが、生物製剤の場合は非常に大切になります。しかしやはり、生物というのは気まぐれで、管理者が全く同じ工程を組んだと思っていても、突然違うものを作り出してしまったリしまいます。培養工程管理者は、日々目を光らせて少しでもいつもと違ったことがないかチェックしなければなりません。
 細胞管理は、まさに動物の飼育と同じです。ベテランの培養工程管理者になると、培養機器の状態、顕微鏡でのぞいた細胞の状態、などによりその時の状況がわかります。栄養状態が悪い、状態が良い、増えすぎている、増えそうにない、など細胞と会話ができるようになってくるのです。
 
 ここまでご説明させていただきましたように、生物製剤のQCは、規格も大切ですが、細胞などの対象物をいかに理解するかが重要だと思われます。従いまして、機器や工程の規格だけでなく、従事者の規格化(というと失礼かもしれませんが)がまさに重要になってきます。

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執筆者について

渡部 博次

経歴 10年強、製薬会社にて細胞工学(バイオプロダクツ製造研究)を行った後、商社などを経てバイオベンチャー経営に携わる。基礎研究から臨床、ライセンス、財務、法務、営業にわたり企画開発を行うことによって、経営を再構築させることを得意とする。現在、大学にて「実社会に役にたつ経営学手法」をテーマに教鞭を行う。 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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