医薬品開発における非臨床試験から一言【第59回】
光学活性体の薬物動態
高尿酸血症治療薬として開発したBOF-4272は、スルフォキシド基を光学不斉中心とするR体とS体からなるラセミ体(下図)です。薬理作用はS体のみに認められるため不斉合成を試みましたが、S体は物理化学的に不安定のため、ラセミ体として研究しました。一般に炭素を不斉中心とする光学異性は多いのですが、スルフォキシド基を光学活性中心とする化合物は極めて限られています。
このBOF-4272をモデル化合物として、ラセミ体及び光学異性体のin vitro及びin vivoの体内動態を紹介します。研究では光学活性体の分析法、あるいは薬理作用との関連に注目しました。
ラセミ体BOF-4272をマウスに経口投与して血漿中及び肝臓中のラセミ体濃度推移と薬理作用の指標である組織中尿酸濃度との関係を調べました。肝臓中/血漿中薬物濃度比は、投与後1時間:2.5、8時間:6.3に増加しました。また、投与後の肝臓中尿酸値は0.34~0.75 µg/g tissueとなり、正常マウスの尿酸値(5.03~10.96 µg/g tissue)と比較して有意に低値を示しました。これらの結果から、BOF-4272は標的臓器の肝臓中に高濃度に移行して薬理作用を示すことが明らかとなりました。
薬物動態研究において光学分割測定による定量法の開発は、なかなか大変です。BOF-4272では、まずHPLCを用いた定量的な光学分割測定法の開発を試みましたが、S体とR体を分割して、同時に定量する手法は、定量性の面で困難でした。そこで、既に完成していたラセミ体の定量法に加えて、別途に、光学分割測定を行い光学異性体の存在比を求め、2つの測定値から、S体とR体の定量値を示しました。
光学分割測定では、BOF-4272の分離用カラムを設置し、続けて光学分割用カラムを用いた順相系HPLCにより、BOF-4272光学異性体の『存在比』を定量値としました。別途に、逆相系HPLC分析法で、同じ試料からラセミ体濃度を定量し、この値に光学異性体の『存在比』を掛け合わせて、光学異性体濃度を求めました。これで、高感度の分析法となりました。なお、ラセミ体BOF-4272は、(S)-BOF-4272と(R)-BOF-4272が1:1で混合しており、幸いなことに室温で安定であることを確認しています。
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