【第5話】医薬品品質保証こぼれ話 ~旅のエピソードに寄せて~

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

 

品質と安全性

20名以上の死者・行方不明者を出した知床沖の遊覧船沈没事故から約2年半が経った9月18日(2024)、この遊覧船の運行会社の社長が逮捕されました。必要な知識がない状況下に安全管理者となり、悪天候の中に遊覧船を運行した結果、知床という風光明媚な地に思いを馳せ、この日の遊覧を心待ちにしていた参加者の楽しみは一転し、想像もしなかった最悪の結末を迎えました。

この事故を“品質と安全性”という視点で考えた場合、知床は世界自然遺産でもあり、観光資源としての自然環境は“品質”としては申し分ないでしょう。しかし、この地の海を遊覧船で巡るという企画・イベントをお客様に満足していただく形で遂行するためには、安全が確保できる状況の下に実施することが前提となります。上記の社長はこの大前提である安全を軽視し、欲に駆られて、漁船など他の船舶が引き返す風雨の中、運行を強行しました。逮捕が事故から2年半も経過したこの時期になった理由はともかく、この社長の責任は重大です。

本来、“品質と安全性”が世の中の様々な事柄に関して“セットで求められる”ことは、誰もが認識しているはずですが、安全性が蔑ろにされるケースは少なくありません。件の紅麹製品の健康被害の問題への対応経緯にもその一面が窺えることから、この製品を製造販売する会社の社長ほか幹部の責は免れないでしょう。この製品に限らず医薬品や食品、さらには化粧品など人に適用する製品については、経口・外用を問わず、その安全性を上市前に入念に確認することが、製造者・販売者に課された最低限の責務であることは言うまでもありません。しかし、本来、不完全な存在である人間の成すことに完全・絶対はあり得ないことを考慮すると、万一、安全性が懸念される問題が生じた場合の対応というものが大変重要となってきます。

特に人の生命に重大な問題を来すケースにおいては、因果関係が疑われる事案がたとえ1件でも確認された場合、速やかに購入者・使用者に向けて使用を止める措置を講じるとともに、全社を挙げて早急に同じ事案の発生の有無を確認する作業を進めることが重要です。勿論、その一方で原因究明を行うのは当然ですが、先ずは使用を止めることを優先すべきです。この初期段階の対応を誤ると、時間の経過とともに問題が大きくなり、最悪の場合、多くの死者を出す事態にまで発展しかねません。このことから、研究開発段階の検証に加え、販売後の情報収集・安全監視、重大事案発生時の対応・対策を重視・充実することが生活者の安全を確保する上でとても大切となります。また、このことが、結局は企業の信頼・信用の獲得、継続的発展という観点からも重要であるこことを、特に、企業幹部は強く認識する必要があるでしょう。

 

 

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