医薬品のモノづくりの歩み【第33回】
執筆者関連書籍「医薬品製造におけるモノづくりの原点と工場管理の実践」
安定操業の礎ともいうべき安全衛生と環境保全(1)
本連載‶医薬品の「モノづくり」の歩み″では、これまで品質確保、安定供給、生産性向上の重要性について触れてきました。ここからは、話を少し変えて、医薬品に限らず、「モノづくり」を担う工場が安定操業を継続するための礎とも言うべき「安全衛生」と「環境保全」について触れていきたいと思います。
「モノづくり」の中でも、特に医薬品の製造では、その主成分となる原薬に毒薬や劇薬など、人体に影響を及ぼす有害な化学物質を多量に使用することがあります。また、溶媒や試験にアルコール類を使用することもあり、これらは引火しやすい危険物になります。さらに、医薬品の製造には多くの設備や機械を使用し、作業者が協働して行う機会が多いことから、操作ミスや不注意で大きな事故に繋がる危険性を持っています。一方、機械化が難しい目視選別作業や無菌室での作業は、長時間作業により肉体的負担が大きいと言えます。このように、危険と隣合わせの環境の中で製造に携わっている工場では、ひとたび大きな労働災害や火災が発生した場合、発生と同時に操業が一時停止するだけでなく、その後の現場検証と再発防止の対策が終了するまで、操業を再開することができません。
環境面においても同様で、様々な環境に影響を及ぼすリスクを持っています。例えば、集塵フィルターからの漏れにより粉塵などが大気中へ飛散したり、廃液や排水の漏洩により土壌や河川が汚染するリスクが挙げられます。このような有害物質の大気中への飛散や河川への漏洩は、甚大な環境汚染に繋がり、そこで働く従業員だけでなく、その地域で暮らす住民の安全と健康に大きな影響を及ぼしかねないことから、適切な処置と再発防止の対策ができるまで、操業を一時停止することになります。
その結果、安定操業を続けてきた工場が、その間医薬品の生産ができなくなり、本来の社会的使命である医薬品の安定供給の「モノづくり」の土台が崩れ落ちてしまいます。そのため、安全衛生と環境保全は、安定操業を続けるための礎として、どの工場でも、従業員全員がしっかりとその意識を持って、取り組むべき重要なこととして位置づけられています。
では、ここから安全衛生の話に移して、まず、日本の製造業の労働安全の変遷を見てみましょう。
日本に労働安全衛生関係の法規が整備されたのは、今から50年ほど前の1972年に労働安全衛生法と労働安全衛生規則が施行されてからです。当時は戦後の高度経済成長期の中にあって、年間 6,000人を超える人が、仕事によって尊い命を落としていました。その後の法整備と業界挙げて労働安全対策に取り組んできた結果、労働災害は大幅に減少してきました。しかしながら、その後は現在に至っても1000人前後の方が、仕事中の怪我や過重労働で命を落としています。1)2)(図1)
医薬品業界では、図2のグラフの通り、1999年~2021年の労働災害発生件数は150件前後の横ばいで推移していましたが、2018年以降は増加傾向にあります。3)
このような状況下にあって、製造業の中でも、医薬品を安定供給する社会的責任を担う工場では、労働災害を発生させることなく安定操業を継続することが大変重要になるわけです。
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