偽薬事件から、APIの品質保証を考える(4)【最終回】

2013/08/19 原薬

ペットフード事件
 2007年に北米で、特定のロットのペットフードを食べた犬や猫が多数、腎臓結石で死亡するという事件がありました。(文献1)ペットフードを調査したところ、原料として使われている小麦由来のグルテン(タンパク質の一種)にメラミン、アメリン、アメライド、シアヌル酸などのトリアジン誘導体が含まれていることが分かりました。(図1)これらの化合物は、メラミンの3つのアミノ基が一つずつ加水分解でヒドロキシ基に置き換わっていった化合物です。アメリンが1個、アメライドが2個、シアヌル酸が3個ともです。いずれの化合物も窒素含有量が高いので、グルテンのタンパク含量を上げるために、混入されたものと思われます。(文献1)


 メラミンは、尿素をアンモニアで処理することにより合成されます。(図2)この際、不純物としてアメリン、アメライド、シアヌル酸を生じます。これらの不純物は、昇華もしくは蒸留精製によって取り除かれ、純度の高いメラミンが得られます。メラミンと不純物はほとんど同じ量であったことから考えると、筆者はメラミンの精製残渣がタンパク含有量を増すために使用されたものと推測しています。


 ペットの死因を調べるために、死亡したペットから結石が回収され分析されました。結石は、メラミンとシアヌル酸の複合体でした。生体内にメラミン、シアヌル酸は存在しないので、これらは、汚染されたペットフード由来であったと考えられます。メラミンは、シアヌル酸と混合すると水素結合によって2次元高分子複合体を形成し、溶解度が極端に落ちることが知られています。(図3)この複合体が腎臓の中で形成されたために結石ができたと考えられました。猫、ラットを使った実験により、メラミン、シアヌル酸は、単独低用量投与の場合、結石を生じませんが、混合投与の場合には結石を与えることが確認されています。(文献2)また、メラミンはほとんど代謝されず、腎臓から尿排泄されることが知られています。これらのことから、ペットフード事件では、メラミンとシアヌル酸の混合物が混入され、尿排泄の際、腎臓で溶解度の低い複合体を形成して結石となったと言われています。

 

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執筆者について

森川 安理

経歴 アンリ・コンサルティング 代表。
大学修士課程で有機化学を専攻後、1977年旭化成工業(株)入社。スクリーニング化合物の合成、プロセス化学研究に一貫して従事。この間薬学博士号取得。その後、医薬原薬の工場長を10年経験。工場長として、米国、イタリア、豪州、韓国の当局の査察および、制癌剤を中心にする治験薬の受託生産を経験。旭化成ファインケム(株)を2013年2月末退職。2013年3月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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