いまさら人には聞けない!微生物のお話【第23回】

2022/08/19 その他

湿熱滅菌の概要。

15. 湿熱滅菌
15.1 湿熱滅菌の概要

湿熱滅菌は、水の存在下(飽和水蒸気)での温度による微生物の殺滅です。以前は高圧蒸気滅菌と呼ばれていましたが、必ずしも高圧蒸気による滅菌とは限らない注)ため、現在は湿熱(moist heat)という用語に統一されています。水が存在しない状態での温度による滅菌は、乾熱滅菌となります。湿熱滅菌と乾熱滅菌では、微生物の死滅動態は大きく異なります。これは50℃の風呂には熱くて入ることはできないが、100℃のサウナには入ることができる、ということからもわかると思います。

 注)湿熱滅菌の代表的な運転サイクルとして、ISO17665-1 では次の5種類が代表的なサイクルとして紹介されています。

  ①    重力置換式飽和蒸気サイクル
 ②    真空脱気式飽和蒸気サイクル
 ③    空気蒸気混合サイクル
 ④    水散布サイクル
 ⑤    水浸漬サイクル

 詳しくは、ISO17665-1を参照してください。

湿熱滅菌において重要な工程パラメータは、温度、湿度(残留空気)、圧力そして時間です。特に温度が最も重要なパラメータです。

湿熱滅菌で意識することは少ないかもしれませんが、重要なポイントが2つあります。一つ目は、「湿熱」であること。つまり空気は極力少ない状態で、できる限り飽和水蒸気に近い状態で滅菌を行うことです。極端な話、空気中での滅菌では乾熱滅菌になってしまい、微生物を死滅させる条件が全く変わってきてしまいます。

2点目は、水は空気より軽いということです。水(H2O)の分子量は約18です。一方空気はおよそ80%の窒素(N2)と20%の酸素(O2)の混合気体で、その平均分子量は、約28.8になります。つまり空気は水の約1.6倍も重いのです。そのためラボ用のオートクレーブにフラスコのような空容器を置き、そのままスイッチを入れると、フラスコの中に空気が沈んだ状態で滅菌を行うことになります。つまりオートクレーブ内は飽和水蒸気で満たされていたとしても、フラスコ内は乾熱滅菌のような状態になり、十分な滅菌効果が得られない場合があります。これらは産業用の湿熱滅菌装置で滅菌を行う場合も同様で、注意が必要な点です。

湿熱滅菌では多くの場合、標準的な温度条件として121℃のプロセスが紹介されています。確かに121℃の条件下では、耐熱性の細菌芽胞も死滅させることが可能です。では120℃ではどうでしょう?115℃では?
ここで湿熱滅菌に際して押さえておいていただきたい用語として “F0値” というものがあります。F0値の定義は、以下の通りです。

F0:湿熱滅菌におけるプロセスの微生物不活化能力の程度であり,10℃のz値(D値を10倍変化させる温度変化の度数)を持つ微生物について,121.1℃の温度に等価な時間(分)で表される値。

 

定義を読んだだけではよく分かりませんが、要するに当該滅菌工程の能力が、121.1℃(≒121℃)のプロセスでは何分に相当するか、という意味です。湿熱滅菌は、歴史的に2気圧下での水の沸点である250°F(=121.1℃)での指標菌の死滅動態について多くの研究がなされてきました。そのため121℃というのが、標準的な条件として定着しています。単純には、F0値というのは、湿熱滅菌の工程能力を121℃の条件に置き換えることで、工程の能力を分かりやすく表現したものと言ってもいいと思います。

 

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執筆者について

古谷 辰雄

経歴

株式会社シーエムプラス GMP Platform シニアコンサルタント
ジョンソン・エンド・ジョンソン、クリエートメディック、ボストン・サイエンティフックにて、滅菌管理、微生物管理、品質保証業務を経験した後、2013年に(株)シーエムプラス入社。
医療機器メーカー在籍当時、エチレンオキサイド滅菌のスペシャリストとして厚生科学研究班、各種滅菌関連委員会に参画。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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