GMP/GCTPケーススタディ【第1回】

GMP指摘事例速報-原料受入時の供給元の確認

 先般(2022年4月28日)、改正GMP省令施行に連動してGMP事例集(2022年版)が発出されました。先月までは1年間、改正GMP省令をテーマに研究班の経験を踏まえて解説してきましたが、このシリーズでは事例集を対象に解説を試みたいと思います。その他、今年度からPMDAより指導事例がウェブ公開されていますが、その本質についても解説できればと思っています。したがって、ケーススタディでは事例集に限らず、広くGMP(今後の状況によってはGCTP)に関する事例の解釈や解説を試みたいと思います。第1回は、4月にPMDAから初回のGMP指摘事例速報⑴(Orange Letter、以下、O/L)が公開された内容について、筆者の監査経験や規制作成経験からその本質に迫りたいと思います。ただし、筆者の立場上、当局の情報を得ているわけではなく、また、当局や所属する組織の意向を代弁するものでもなく、あくまでも経験に基づく個人的見解であることをご了承ください。
 O/Lでは、GMP省令第10条第5号に関わる指摘として、「原料の受入時に供給元の確認を適切に行わなかった事例」となっています。確認された事例は、指摘対象の原料の容器に貼付されたラベルには原料メーカー名が未記載であったが、受入記録にはそのラベルでメーカー名を確認したように記録されていたということです。実際、受入担当者は容器に貼付されたラベルではなく試験成績書によりメーカー名を確認しています。加えて、製造所の手順では、ラベルにより供給元のメーカー名を確認し、記録するように規定されていました。原料の確認の重要性は、最近の不正製造問題に関わる原薬の取違いに通ずる示唆がO/Lの中でされています。具体的な指摘内容は記されていませんが、この流れで行けば、手順どおりにラベルにメーカー名を記載し、それを確認して記録するようにとなると推定されます。この場合、作業者の教育訓練も指導対象となるでしょう。
 O/Lに示されているイラストや状況から、倉庫での原料の受入れではなく、Dispensing後又は作業室用のステンレス缶などへの積み替え後の製造現場での原料の受入れであると推定します。先ず、省令の第10条第5号の記載を確認してみましょう。ここには、「製品等についてはロットごとに、資材については管理単位ごとに、それが適正である旨を確認するとともに、その結果に関する記録を作成し、これを保管すること」となっています。「製品等」とは第2条第3号の定義から製品と原料両方をいうもので、この事例では原薬製造のための原料となります。次に公布通知⑵の当該条項での解説を見ると、適正である旨の確認方法は、「GMP省令第11条第1項第4号に規定する試験検査の結果について同項第8号の規定による品質部門からの報告に基づく」と先ず書かれています。これを事例に当てはめると、当該原料をQCが試験し、試験結果(適合)を製造部門に対して報告した文書(試験成績書)で確認することとなり、行われていた方法自体は、実質上第10条第5号に反するものにはなっていません。次に、公布通知では確認方法のもう一つとして「薬機法第50条から第52条までの規定による事項が記載されている資材及び製品については、記載が適正である旨の確認も含む」こととなっています。この第50条から第52条は、製品が市場に出回る際に容器に表示すべき事項であって、市場に出回る製品の個装箱にある表示が正しいことを確認する工程やこれから使用しようとする個装箱にある表示を確認する行為が示されているものの、事例は原料であることからここは適用されません。以上のことから、省令及び公布通知の規定の本質からは、事象そのものには実質上の問題が生じていませんが、それでは指摘を受けたポイントはどこにあるでしょうか。
 直接的には「自社で定めた手順書の規定に反した」というところにあります。O/Lの「問題点・リスク」の項には「本来入荷すべき原料と異なる原料が入荷された場合のリスク」が指摘されていますが、この事象をより正確に表現すれば、製造現場への出庫となり、工場への原料の入荷とは異なるでしょう(以降、入荷と入出庫を区別します)。入荷時にはQAが承認した供給者の原料が入ってきたことを受入検収で確認し、次の段階で例えば製造所独自の製品コード、管理番号が付されれば、以降はその製品コード及び管理番号を確認して入出庫していくことは問題ない行為であり、更にはその表示もなくバーコード管理されているのであればCSVによる保証とともにその管理は認められるものとなります。O/Lからは、第10条第5号の対応には、入出庫する原料のラベルに、その原料のメーカーを記載しなければならないと思ってしまうところですが、その点は、被監査側(Auditee/Inspectee)は誤解してはならないでしょう。第10条第5号のこの事例における本質は、製造に用いようとする原料の試験結果が適合していたことを試験成績書から確認することです。

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