いまさら人には聞けない!微生物のお話【第12回】

微生物の好きなもの、嫌いなもの。
第二部 微生物のコントロール
1. 用語の解説
2. 微生物は不潔?
3. なぜ微生物管理が必要なのか?
4. 微生物を殺滅/除去する
4.1 加熱による殺滅
4.2 放射線による殺滅
4.3 化学物質による殺滅
5. 管理の対象としての微生物
5.1 微生物の好きなもの、嫌いなもの
5.2 設備/エリア
5.3 空気
5.4 製造用水
5.5 原料、資材
5.6 作業者の管理
5.7 清掃、洗浄、消毒
5.1 微生物の好きなもの、嫌いなもの
医薬品や医療機器の製造における微生物コントロールでは、原則的にはあらゆる種類の微生物(細菌、真菌、ウイルス・・・)がその対象になります。しかし通常の微生物管理では、おもに細菌と真菌を対象として管理を行っています。その理由は、以下のとおりです。
- 多くの医薬品や医療機器の製造における汚染では、細菌と真菌が最も一般的な汚染源である
- 細菌や真菌は、環境が適していれば、早い速度で増殖する
- 細菌および真菌は、設備さえあれば、試験/検査は比較的容易である
- 細菌・真菌に対して適切なコントロールが行われていれば、(多くの場合)その他の微生物に対しても有効と考えられる
ただし例外もあります。たとえば血液製剤などはウイルスの混入のリスクがあるため、当然ウイルスはコントロールすべき対象になります。またかつてヒト乾燥硬膜によるクロイツフェルト・ヤコブ病(プリオン病)が発生した事例があるめ、このような製品ではプリオンもコントロールしなければなりません。
微生物管理の基本は、現実的な範囲で微生物が好む条件を排除し、嫌う条件を導入することです。上述のように医薬品や医療機器の品質管理、製造管理という前提で一般細菌および真菌を対象として考えると、以下のようになります。
表4 微生物が好む条件と嫌う条件
意味 | 具体例 | |
好む条件 | 多くの微生物(細菌・真菌)の増殖が活発になる条件 | 温度、水分、栄養などの周囲の環境が適当であること |
嫌う条件 | 多くの微生物(細菌・真菌)が死滅する、または増殖が抑制される条件 | 高温または低温、乾燥、高浸透圧、放射線、殺菌剤などの化学物質の存在、強酸/強アルカリ |
これらはあくまでも一般論に過ぎませんが、医薬品や医療機器、あるいは食品産業における微生物管理を考える際に、大いに参考になります。これをベースとして、微生物管理の具体例としては、以下が挙げられます。
表 5 微生物管理のポイント
要素 | 具体的な事例 | |
1 | 水分がないこと | ・乾燥した環境 ・洗浄後の水切り、乾燥 |
2 | 栄養分がないこと | ・バリデートした洗浄工程 ・食べかす、皮脂、毛髪などを持ち込まないこと ・作業エリアでの飲食の禁止、更衣、手洗いなど |
3 | 清潔な環境 | ・塵、埃、微粒子のない環境 ・空調の管理、差圧管理 |
4 | 高温、または低温 | ・水の保存は熱水状態(80℃)で行う ・冷蔵/冷凍での保管 |
5 | 紫外線照射 | ・夜間に殺菌灯照射 ・製造用水に紫外線照射 |
6 | 殺菌効果のある薬剤 | ・アルコールによる清拭 ・製品や対象物に影響がない場合は、残留性薬剤を使う |
微生物管理は、製造エリア、原材や資材、製造場所(空間、設備の表面、壁面、床面)、作業者などすべてにおいて行う必要があります。言うまでもありませんが、場所、物、人では管理の方法は大きく異なります。それぞれの特性を理解し、それぞれの要件や状況に応じた管理を行うことが必要です。
以下に管理すべき主要なポイントとその具体例を紹介します。
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