知的生産性を革新する組織構造・空間構造【第11回・最終回】

2017/08/18 施設・設備・エンジニアリング

11・最終回 革新的な施設の具体例-3

B社研究所
 
研究所の課題と要望
B社は日本を代表する医薬品企業であるが、世界的な新薬の開発競争は今後さらに厳しさを増してくることが予想される。新しい有効な医薬品を作り出すためには研究開発費は500億から1,000億円かかるといわれている。開発費だけでは国際競争を勝ち抜くことは出来ない。そこで、課題として世界でもっとも生産性の高い研究施設をつくることが求められたのである。
この研究所は既存施設の増築である。既存を生かし、さらに新しい研究施設が加え全体で1,000人以上の研究者が集中する巨大な研究開発施設になる。
その課題は研究の生産性を飛躍的に上げるために、これほど多くの研究者同士のコミュニケーションをどのようにするかである。
その空間構造をどのようにするかが最も重要なテーマである。当然だが、30メートル理論の中には収まらない。それを越えたコミュニケーションの空間構造をどのように創り出すかである。
 
課題解決
その空間的解決が空間の要素で述べた施設をつなぐ広い回廊である。
この200メートル以上に及ぶ長く湾曲した回廊がこの研究所施設のすべての施設を
繋ぐと同時に、回廊自体が一つの巨大なオフィスなのである。


図-27 B社研究所 平面図

世界を凌駕する生産性を実現するためのツールなのである。
長い回廊で30メートル理論と同じ視認距離を実現するためには、研究者は移動する必要がある。研究者はオフィスにじっと座っているわけではない、必要に応じて実験室や会議室、あるいは食堂などに頻繁に移動する。移動することで多くの人と出会いコミュニケーションの範囲が広がり、結果として30メートル理論の空間を流動化したと同じ状態を作り出すのである。
この長い湾曲したオフィスは、吹き抜けを持った壁のないワンルームある。移動すればすべての人を視覚的に確認することができる。ビル全体を曲線にすることで、一つの空間、一つのビルディングにいることが知覚され、心理的一体感が醸成され、同時に組織間の壁をなくす効果がある。研究者の中には実験施設が遠いことに異を唱える人もいる。
ある人にとっては実験施設が遠くになり不便であるが、これによって他の部門の人との出会いが増え、コミュニケーションの機会が増える、実験室が遠く時間的な生産性ほんのわずか落ちることになるが、知的生産性は上がる。
これを有益な不便と呼んでいる。

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執筆者について

糀谷 利雄

経歴 1967年明治大学理工学部建築学科を卒業。
1982年大手エンジニアリング会社入社。
医薬を中心に、生産施設、研究所など多数のプロジェクトに参画し、高生産性を実現する施設のコンセプトを計画・設計する。
現在、株式会社シーエムプラス フェロー
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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