医薬生産経営論【第2回】

2013/07/19 製剤

 日本国内で製造するとコストが高い。それは日本のインフラや諸々の制度が高コスト構造だからだ。
 賃金、電力などのエネルギー費、高速道路料金、法人税率など。しかも、台風や地震や津波がある。
 
 こうした発言を、「耳にタコができる」くらい、私はこれまでの人生において聞かされた。
 つくづく、私の人生は不幸であったと思うし、アンフェアな差別に耐えなければならなかった。
 こうした発言は、他社や、新興国の医薬品企業の製造コストを十分に承知したうえでなされるべきであるが、決してそうではない。他社の原価情報は絶対に入手不可能だし、新興国では正確な原価計算がなされていない企業も少なからず存在する。従って、経営者の感覚的かつ意図的な発言に過ぎない。それで生産部門の人たちの心が傷つくだけならまだしも、国内工場閉鎖といった厳しい現実に直面すると、彼らすべてが、魂が虚空を彷徨するような、人生の絶望感や無力感に襲われてしまう。
 経営者にとって、生産部門を苛めるには、「コストが高い」と、只それだけを叫べばいいのであって、生産部門側も反論するための他社製造原価との比較データがないから、辛いけれど、じっと我慢するしか手立てがないのである。そして、こんな不毛の議論、労力の浪費をしている間に、むしろ、コストを改善するために労力と費用を使うべきなのに、なぜかしら、苛める能力には長けているが、自らはコストを改善する能力のないコーポレート部門や管理部門の人員や費用は著しく膨大化し、手が付けられない程の、官僚主義と呼ばれる「恐竜」が、いつの間にか育ってしまうのである。
 
 私が若い頃、本社の会議室でこんなことがあった。私が生れて初めて「恐竜」を見た日である。
 「工場の従業員は仕事をしなくてよい。仕事をしなくて遊んでいても給料は払う。それでも、国内工場で製造するより新興国から製品を購入した方がコストは安い」
 私は根に持つタイプの人間ではないが、この発言を、この侮辱を、この年齢になった今でも忘れない。

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執筆者について

隠居 孝志

経歴 1972年武田薬品工業(株)入社。生産計画、設備計画、要員計画などの業務に従事。資材部長、生産管理部長、湘南工場長、監査役室長、コーポレートオフィサー・製薬本部長を歴任。
この間、武田アイルランド製薬建設や、グローバル生産体制の構築、BCP推進、環境経営の推進などに携わる。また、業務執行会議メンバーとして、会社全般の事業戦略・製品戦略・経営計画策定、及びミレニアム社、ナイコメッド社の買収などに参画。2012年11月退社。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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