医薬品の技術移転のポイント【第17回】

2022/10/28 品質システム

前回に引き続き、レギュレーション上の品質トラブルについて。

2)製造所との契約不備に伴う販売延期(米国)/安定供給の確認 

 注射剤新製品の米国充填製造所がFDAから何度かWarning Letterを受け取り、FDAと相談して、自主操業停止を行いました。新製品が承認されると新発売後、半年間の販売継続可能だが、半年以上操業停止が続くと欠品になることが予測されました。営業部門により販売後に欠品になるものは販売しないしできないとの判断がなされました。審査管理課に報告すれば承認が遅れる可能性があるので、その状況を審査管理課に報告しない判断が研究開発部門と開発薬事部で決定されました。様子をみていましたが操業停止は6か月以上になり、承認を得ても半年後欠品になることがわかりました。予定通り承認されましたが、薬価を申請しており、経済課に薬価申請の取り下げを行う前に、なぜ販売が遅れるかを審査管理課に説明しなければなりません。
承認が下りるまでは研究開発部門と開発薬事部の責任ですが、承認が下りると薬事部と本社QAの責任です。薬事部の担当者は筆者を審査管理課まで案内する重要な役割、筆者が資料作成して説明する役割でした。説明が終わると、審査管理課よりきつく言われました。

 「承認を下ろすとは、有効性/安全性/品質だけでなく、安定供給できるとの前提である。何を考えているのか?」と立腹され叱責されました。筆者もなぜ審査管理課に状況を知らせなかったのかふしぎでしたので、もう少しで「その通りですね。研究開発部門と開発薬事は何を考えていたのでしょう」と言いそうになりましたが、会社を代表していますので、平謝りするしかありませんでした。さらに下記を言われました。
何故、充填の製造所が自主操業停止したのか説明して欲しいと言われました。そこで状況を説明するために、製造所に事情を説明し無理なお願いをしてなんとかFDAの指摘事項を入手し、和訳し、レポートにして2~3度に分けて説明しました。
全体で約400以上の指摘があり、クリティカルもメジャーの指摘もありました。米国でも大きな製造所で、GMPはしっかりやられていたと思いますが、FDAの査察官が数人来て数か月徹底的に査察すると問題点は出てくるのだと思いました。査察では、Warning Letter(警告状)を貰わないようにするのが重要です。
当局から、「製造所が製造を再開したら、再度GMP適合性調査に行くように、PMDAに説明して欲しい」と言われ、PMDAに説明しました。実は警告状を貰っているときにPMDAによるGMP適合性調査は行われ適合を得ていました。PMDAにすれば、査察でしっかり見なかったのか?と言われているようなものです。確かにそうですが、期間の限られた査察で問題点を発見することはとても難しいのです。熊本県の化血研では40年間、当局の査察で発見できませんでした。また和歌山県の山本工業では当局だけでなく、多くの製販が問題点を発見できませんでした。でもPMDAはさすが大人の対応でした。ではどういう位置づけで再度GMP適合性調査をするかと前向きでした。

 この事例から学ぶことは、下記です。

 ① 安定供給が前提であること。
 ② 安定供給に問題が生じれば、早めに報告すること。
 ③ 安定供給の努力をすること。
 ④ 契約に安定供給の項目が無かったので、B社及びC製造所に損害賠償を請求できなかった。できれば安定供給を契約に盛り込みそれができなかった時の保証を盛り込むこと。


 この事例には後日談があります。結局承認されましたが販売が1年以上遅れました。よって信頼性保証本部の人事委員会で総括から、「本社QAは、こんな製造所のGMP監査をしたときにどうしてこの製造所はダメと言わなかったのか」と言われました。そして「担当者をマイナス評価するように」とのことでした。「QAにとって、製造所をダメと言うことはこの新製品の製造を止めることになります。製造所は研究開発が決めています。QAはGMP監査をして問題あれば改善の指導しかできません。ましてやPMDAもGMP適合と判断した製造所です」と説明しましたが、研究開発部門出身の総括は「ダメだ」との判断です。本来この問題は研究開発部門と開発薬事部が当局に生産の状況を説明しなかったこと。かつ生産部門がギリギリの発注しかせずに在庫を絞っていたことが販売できなかった原因でした。そのしりぬぐいをQAの担当者がしてくれました。担当者が資料入手、和訳、説明資料を作成してくれました。そして筆者(QA長)と一緒に当局に説明しました。難しいテーマを担当者が頑張ってくれたのです。QAには研開から難しいテーマが来ます。これから難しいテーマを担当するとマイナス評価されるなら、仕事を任せることができませんし、誰も引き受けてくれません。このことを信頼性保証本部の人事委員会で説明し、かつ、「担当者をマイナス評価するなら、組織長である私(QA長)をマイナス評価してください」と豪語しました。

 評価のフィードバックで、総括から「お前(QA長)をマイナス評価した」と言われました。担当者がマイナスにならなかったのは良かったのですが、どう考えてもマイナス評価される理由がありません。そこで、「百歩譲ってマイナス評価は受けますが、問題は研究開発と開発薬事部、かつ生産部門がやるべきことをしなかったからです。QAはそのフォローをしたのです。少なくともその部署の関係者もマイナス評価でしょうね?」
「当たり前では。お前だけでない」(総括)
「本当ですか? だったらご確認をお願いします」
「わかった」(総括)

 半年後の評価のフィードバック時に、この件を尋ねました。
「ところで、あの件、私以外の人の評価はどうでしたか?」
「マイナス評価はお前(QA長)だけだった」(総括)

 正しく評価することがいかに難しいか。きっと承認を取得したということで逆にプラスの評価をもらっていたかもしれません。こんな評価をしていたら、よほどの使命感がないかぎり、QAで頑張ろうと思いません。こんな人事評価をしていても人事担当者はマイナス評価になりません。品質を良くしたいなら、品質関係者を先ずは適正に評価することが基本になります。

 

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執筆者について

脇坂 盛雄

経歴 1979年エーザイ株式会社入社、9年間、品質管理と21年間、品質保証を担う。
専門領域はGQP品質保証、注射剤及び固形剤の異物対応、品質リスクの発見と低減対応 ・医薬品/食品の表示校閲、製品回収リスク回避対策 ・逸脱/苦情対応、変更管理(一変/軽微変更)対応。品質保証責任者(品責)、統括部長および理事を歴任し、2013年9月末に退職。
現在は企業のコンサル・顧問を行う傍ら講演会講師、書籍執筆などを精力的に行っている。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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