製薬メーカーにおけるコア人財の育成【第9回】

2014/07/14 その他

 2. 多様性のマネジメント 「多様化こそ企業発展の原動力」
  2.3 ワークライフ・バランス
 
 今回は、「ワークライフ・バランス」というテーマで話を進めることにする。
 「ワークライフ・バランス(英語ではwork-life balance)」とは、「ワーク(仕事、職業生活)」と「ライフ(生活、個人生活)」とを対立的にとらえて、両者の量的バランスの調整・回復を目指すものである。最近では、さらにその考え方を一歩進めて、自らの人生観を軸に「ワーク」と「ライフ」を高い次元で融合し、両者の充実を求め、生産性や成長拡大を実現するとともに生活の質を高め、充実感と幸福感を得るなどのシナジー効果を目指す働き方として「ワークライフ・インテグレーション(work-life integration)」という言葉が登場している。今回は、厚生労働省が少子化問題、格差問題、労働力不足への対応策の「憲章」として推進し広く世に知られている「ワークライフ・バランス」という用語を使うが、内容としては「ワークライフ・インテグレーション」について述べる。
 
2.3 ワークライフ・バランス
 
 「ワーク」は、暮らしを支え、生きがい・働きがいや喜び・充実感をもたらし、責任を果たすものである。一方、「ライフ」、すなわち、スポーツや勉強などの個人生活、家事や育児などの家庭生活、近所との付き合いなどの地域生活も暮らしに欠かすことができないものであり、その充実があってこそ、子育て期、中高年期といった人生の各段階において生きがい、幸福感は倍増する。しかしながら、現代社会においては、安定した仕事に就けず経済的に自立することができない人、仕事に追われて心身の疲労から健康を害しかねない人、仕事と育児や老親の介護との両立に悩む人など、「ワーク」と「ライフ」の間で問題を抱える人が多く見られるのが現実である。これらが、働く人々が将来への不安や豊かさを実感できない大きな要因となっており、社会の活力の低下や少子化・人口減少という現象にまで繋がっているとも言える。それを解決する取り組みが、「ワーク」と「ライフ」の融合の実現である。「ワーク」と「ライフ」の融合により、一人ひとりが人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できることになる。
 
 筆者が米国駐在員であった四半世紀前、「ワークライフ・バランス」という言葉は今ほど使われてはいなかった。シカゴの郊外で勤務していた時の話である。周りの人たちは勤務時間がばらばらで、早い人たちは午前6時から午後3時まで、遅い人たちは午前10時から午後7時までであった。とくに早い時間帯の人たちは、早く家に帰って地域の子供たちのサッカーや野球のコーチをしている人たちが多かった。また、大学・大学院、コミュニティーカレッジなどに通学する人たちもいた。時には、就業後にゴルフコースを回ることもあり、ディライト・セービングタイム(サマータイム)の恩恵もあって、明るい時間帯に1ラウンドを回ることが十分に可能であった。勤務時間が遅い人たちの中には、朝、子どもの世話を含む家事一切をすませてから出社する者もいた。それから、毎週、金曜日はカジュアル・デー(Casual day)であった。それぞれ思い思いの服装(ほとんどがスポーツウェアー)に身を包んで出社してきた。服装が変わっただけではあるが、上司と部下の普段の会話内容もカジュアルに大きく変わった印象を受けた。退社後そのままスポーツをしたり、キャンプに出掛けたり、ショッピングを楽しむ者など様々であった。これらは、「育児・介護は男女が公平に分担すること」、そして、「仕事は就業時間内に終えること」という大原則があり、さらに、通勤が基本的に自動車で30分程度であったからこそ可能だったのかもしれない。

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執筆者について

熊谷 文男

経歴 筑波大学大学院客員教授、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、東京薬科大学非常勤講師
1975年 中外製薬(株)入社。研究開発、プロジェクトマネジメント、人財育成などの業務を経験。米国駐在時には、国際開発も担当。国公私立大学、各種学会・セミナー、大手企業での講演や執筆は多数。現役水泳選手及びスキンダイビングインストラクター。製薬企業米国駐在員OB/OG会「アメリカファルマ会」会長、世界の難病の子供たちを救うNPO「荻田修平基金」 理事、就活支援組織「メディカルカレッジ」アドバイザリーボードメンバー、医薬品業界における「社会人基礎力研究会」アドバイザー、幼稚園理事長・園長、総合旅行業務取扱管理者、等。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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