医療機器関連業界への招待【第3回】

2017/12/09 医療機器

●要旨
 第3回は、顧客に迫ることの大事さを考えます。ニーズから顧客に結びつけるプロセスにも目を向ける必要があります。また、ニーズとして現れない、将来の顧客の存在を見つけるのに、ユーザを見つめることも大事です。医療機器は、特に、用いるときが重要ですから、医療機器の基本要件やデザインの教科書が役に立つでしょう。こうした取り組みは、変化の大きな医療環境に対応する鍵です。

●はじめに ニーズが顧客?
 第1回のところを少し振り返ります。確かに、医療現場からのニーズ発表会は、大変盛んになりました。学会に併設される場合もあれば、各地からの発表もあるでしょう。大学付属の医療機関だけでなく、小さなクリニックからの発表も見かけるようになりました。AMED(日本医療研究開発機構)による、医療機器アイデアボックスという仕組みもあります。
 ニーズがあるということは、顧客がいるということでしょうか。かなり深い考えが必要です。確かに、ニーズを出してくれた人は、顧客になる可能性がありそうです。が、解決に対して、いくら払うと言ってくれたでしょうか?また、もう一つ大事な考えは、今はニーズがないが、将来に多くの人にとって身近なものになる可能性はどうでしょうか?ニーズが存在するということだけで、ビジネスになると短絡的に考えるのは、問題があります。 
 
1 顧客を見つめるために
 ビジネスにおいて、顧客の存在がとても重要です。しかし、その顧客をよく見つめることができているでしょうか?医療製品の特殊性の一つとして、あなたが、その製品のユーザになることは、とても少ないことが挙げられます。絆創膏のような身近なものは別として、ペースメーカを入れる人はごく一部だけです。従って、ユーザにはなれないと考えた方がよく、それよりも、ユーザ目線を持つ努力をすることが大事です。
 ユーザを知るために、医療機関などの見学の機会を活用するのは良いことだと思います。医療従事者や患者さんの思い込みは少なくなく、外部の方から、素朴な疑問をぶつけてもらうことで、気づくことは少なくありません。もちろん、医療現場を見学するには、ある程度のマナーが必要です。プライバシーの保護や、感染症を持ち込まないことなどがあります。ユーザであり、開発に従事する、あるいは協力的な人との繋がりは重要です。最近では、医師や患者さんが中心となった起業も見かけるようになりました。ユーザデベロッパとも言える人々とコラボレーションすることは、とても魅力的です。
 また、患者さんのペルソナ、ペイシェントジャーニーのような、デザインの手法なども大事な技術で、ユーザを理解するために積極的に活用することをお勧めします。スタンフォード大学で実践されている「バイオデザイン」の書籍の中で、ユーザを知るために、たくさんの質問が書かれています。様々な立場から見つめるもので、医療現場の観察をする際には是非役立てたいものです。

2 基本要件を活用する
 薬機法にも、ユーザを見つめる大事なヒントが書かれていることを紹介したいと思います。薬機法41条第3項は、医療機器の基準の規定についてです。医療機器はこのようなものを言いますよ、といった内容で、告示として発出されています。


<図1  医療機器の基本要件>

 元の告示の文章は、とても長くて、読みづらいため、図解をしています。ここで大事なのは、有用性と安全性のバランスを取ることは、もちろんですが、よりユーザに対する目線を感じることができます。ユーザとは誰でしょうか?医師だけでしょうか?取り巻く環境はどうでしょうか? また、使用に際して、どのようなことを考えるかの大事なヒントです。使用者の像、使用の主体、保管管理、使用に際して必要な知識、技術、経験について、じっくりと観察することが大事なのです。この基本要件は、すべての医療機器に適用されます。また、医療機器でなくとも、多くのヒントを含みます。健康、福祉機器はもちろん、生活用品などにも当てはまります。このような観察を習慣として持っておきたいものです。

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執筆者について

吉川 典子

経歴 特定非営利活動法人医工連携推進機構 客員研究員 医工連携コーディネータ協議会会員
大阪大学大学院薬学研究科博士前期課程にて生物学的人工肝臓をテーマに研究を行った後、製薬会社に入社し、開発企画実務を経験。兵庫県庁薬務課を皮切りに、保健衛生行政に携わる。政策研究などの経験も多い。医療機器センター調査部(PMDAの前身)にて、審査行政に関与。先端医療振興財団にて、振興業務に従事。神戸大学大学院医学研究科にて、プロジェクト支援を行った。また、各地の振興組織、大学研究機関での支援を長年行っており、医療従事者の目線を活かしたコラボ、参入促進や新規性の高い医療技術への支援に強みがある。
デザインに強い関心があり、京都造形芸術大学に在学中。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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