化粧品研究者が語る界面活性剤と乳化のはなし【第22回】

2024/01/19 化粧品

ピッカリングエマルションについて。

ピッカリングエマルション 粉で油を乳化する?

 粉と水と油を混ぜると何が起こるでしょうか?一般には、粉体は水となじみやすい親水的な場合には水に、油となじみやすい親油的な場合は油の中に分散しますが、水と油の両方にある程度の親和性を持つ場合には、水相と油相の境目である界面に吸着、いわゆる界面活性剤や両親媒性高分子のようにエマルションを安定化する場合があるのです。

 この現象は少なくとも百数十年前には知られていて、学術論文として発表されていました。ピッカリングエマルションという通称は、百数十年前にこの現象について報告したパイオニアのひとりをリスペクトしてつけられたのです[1]。アカデミアでこの現象に注目したのはほんの一部で、細々と研究が継続されたにすぎませんでした。一方で、産業界ではピッカリングエマルションを利用したアイテムが次々と実用化されました。なかでも化粧品分野では、固体粒子を利用することでいわゆる界面活性剤を配合しないサーファクタント-フリーの処方を開発することが可能になることから、ファンデーションをはじめとするメイクアップ化粧料やサンスクリーンに応用されたのです[2]。

 固体粒子が界面活性剤のように液液界面に吸着するのはなぜなのでしょうか?それは、ある大きさを持った固体粒子の吸着によって、系のエネルギーを著しく低下させる吸着エネルギーが発生するためと理解されています[3]。固体粒子が水と油の両方に適度な親和性を有する時は、もともと水中に分散していた固体粒子も界面と接触すると、その瞬間にそこにトラップされ、吸着します。水中に分散した状態よりもエネルギーが低く、安定な状態となるためなのです。この吸着エネルギーは、それなりに大きいため、いったん界面に吸着した固体粒子はなかなか脱離せず、エマルションを長い期間安定化することができるのです。吸着エネルギーが大きくなる一つの要因としては、固体粒子が液液界面に吸着することによって、もともと水と油が接していた界面が消失するため、系の持つ界面エネルギーが大幅に低下することがあげられています。

 

 

2ページ中 1ページ目

執筆者について

野々村 美宗

経歴

山形大学 学術研究院化学・バイオ工学分野 教授 博士(工学)
花王株式会社において化粧料および身体洗浄料の商品開発に従事した後、山形大学に赴任。2017年より現職。専門は物理化学、界面化学、化粧品学。これまでに生体表面における界面現象のダイナミクス、界面活性剤を用いたエマルション・可溶化物・泡製剤の開発、化粧料・食品の触覚/食感センシングについて研究してきた。著書に『教授にきいた・・・ コスメの科学』、『化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学』(ともにフレグランスジャーナル社) などがある。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

21件中 1-3件目

コメント

この記事へのコメントはありません。

セミナー

2025年5月30日(金)10:00-16:30

バイオ医薬品の開発とCMC戦略

2025年9月10日 (水) ~ 9月12日 (金)

GMP Auditor育成プログラム第20期

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

株式会社シーエムプラス

本サイトの運営会社。ライフサイエンス産業を始めとする幅広い産業分野で、エンジニアリング、コンサルティング、教育支援、マッチングサービスを提供しています。

ライフサイエンス企業情報プラットフォーム

ライフサイエンス業界におけるサプライチェーン各社が提供する製品・サービス情報を閲覧、発信できる専門ポータルサイトです。最新情報を様々な方法で入手頂けます。

海外工場建設情報プラットフォーム

海外の工場建設をお考えですか?ベトナム、タイ、インドネシアなどアジアを中心とした各国の建設物価、賃金情報、工業団地、建設許可手続きなど、役立つ情報がここにあります。

※関連サイトにリンクされます