医薬品工場に求められているHSE要件と事例【第42回】

2023/08/25 品質システム

佐野 旭

日本の後発製薬企業が国際化多様化に変革するポイント。

国際化に対応する医薬品会社に必要なHSEとは?
「日本の後発製薬企業が国際化多様化に変革するポイント」


1、    製薬企業のあるべき姿

日本の製薬企業の80%が後発医薬品メーカーであることが明らかになりました。又、日本に居住する外国人の人数は近いうちに日本国全体の10%になるという情報が日経新聞に掲載されました。筆者が永らく国際化多様化対応について各所で執筆原稿やセミナーでその早期対応を解説してきた事がすでに現実となりつつあります。日本の製薬企業特に後発医薬品メーカーが海外に展開する事を現在のみならず将来も考えていない場合、国際化多様化対応は必要無いかもしれません。しかし乍ら、前述のように日本国内で外国人の数が約10%まで変化した事を私達は良くも悪くも受け入れざるを得ません。つまり、1000人規模の従業員の会社に100人の外国人が働いている環境でビジネスを継続出来なければなりません。近い将来、日本人従業員を物理的に確保出来なくなることを覚悟せねばなりません。日本の厳しいGMPに適合し、HSE(健康安全環境)で日本人のみならず外国人従業員の健康被害も予防出来るGlobal Standardの構築は必要不可欠と申し上げねばなりません。GMPでは不純物の混入が製品本体の外でも不合格と言われるなどの厳しい基準は日本だけです。外国人は合格と判断するのが通例です。これは日本のGMPを理解されていないことが多いと考えねばなりません。したがって、外国人従業員にはグローバルスタンダードを構築して受け入れ教育を徹底しないことにはことごとく法的問題に発展しかねない問題が盛りだくさん有り、ビジネスの健全な継続にも計り知れない打撃を受ける事でしょう。そうでなくとも後発医薬品メーカーの品質不良問題はすでに複数の企業に発覚しており、業界は不信視される事が常態化しております。一方、従業員の健康安全に関しては欧米のグローバルスタンダード対応と日本の安全衛生と称している基準とではGAPが大きい。従業員の健康被害を予防する為の原薬曝露リスクアセスメントの徹底とマネジメントを医薬品製造工場で働く従業員の末端まで浸透を図ることで初めて担保出来る事を学び、企業として世界中の人々の信頼が得られるようにグローバルスタンダード化により変革した企業の活動を見せる必要があります。

2、    国内製薬企業の現状

しかし、日本企業のCSR(企業の社会的責任)に対する意識は決して高いとは言えないのが現状です。8月3日の日経新聞によると2022年度後発医薬品への置き換えが8割を超えた。しかし乍ら、政府目標は達成したものの次のような課題が残っている。

  • 高齢化が進む日本では薬剤費が高止まりしている。
  • 後発品置き換えが普及した結果、メーカーによる安定供給の不安が出てきた。

これを受け、日本政府は安定供給の後発薬支援策を探っている。今まで政府がやってきたことは後発薬を処方する病院や薬局で普及をお金で普及を促してきた。
筆者が懸念するのは「供給面での課題」です。特許切れのため、後発薬は多くの企業が同じ成分の薬を作ることが出来る。1万品目以上で多くは少量生産。「価格面での競争が激しく、収益力が高まりにくい」といった業績面の課題に加えて、致命的になるのは品質不正が発生し、複数の後発薬企業に業務停止命令が出されています。これは他の企業で代替え出来るほどの生産能力が無く、自社の販売分を確保する為新規受注を止めざるを得ない。というビジネスを継続する上での問題がのしかかってきています。製薬企業の使命として、患者様の命を守ると同時に自社関連サプライチェーン各社を含めた医薬品製造業務に携わる従業員の皆さんの健康安全を守ることが社会的責任です。日本の法律ではまだ具体的な健康管理基準値が定められていない現状では、GMPに雲隠れして健康被害を物理的科学的に数値で管理出来ている企業がまだまだ少ない事を重要課題と叫んでいるのは筆者だけでしょうか?法律で規制されているからやむを得ずやる。罰則がなければやらない。その為のチェックのみやっているような企業がいよいよ生き残れなくなる時代に入ってきたと筆者は感じています。なぜなら、国際化多様化に対応すると同時にやらなければ従業員に告発されてビジネスを継続出来なくなることが明らかですね。前述しました10%の外国人従業員の国民文化は会社をよくするためにそして社会をよくするために不適切な事象や行為は告発するべきと考えています。 筆者はこれが正論であると思います。
現実問題として、多くの国内医薬品工場は国内法で求められているGMP規制などに適合することを優先せざるをえません。国内法で具体的に基準値が示されていないHSE(健康安全環境)の特に生産現場で働く人々の健康被害関連の法規制は厳しく運用しなければなりませんが具体的な規制にまで至っていない現実があります。改正安衛法ではラベル表示とリスクアセスメントを行う事を要求されているが具体的な基準値が提示されていません。出来れば具体的な基準値としてのOEL(Occupational Exposure Limit)の8時間TWA(Time Weighted Average:時間加重平均濃度)値を用いた基準値を管理するよう規制し、間違っても健康被害が発生しないよう担保すべきであるがまだ当局の監査や指導が行われていません。しかし乍ら、各種法規制が厚労省以外の行政組織からの法規制として要求されても良さそうな重要課題であるにもかかわらず、話題にもならないのはどうしてでしょうか。これを受けて企業は大切な社員の健康被害が発生しても行政責任ではなく企業の責任となる可能性があることを先行察知して必要なグローバルスタンダードで曝露管理を進めるべきところが筆者の知るところではまだまだのようです。理由は日本国内から得られる技術ではなく曝露管理技術はEUの技術であるため、それほど簡単ではないことが理由の一つに挙げられます。残念乍ら、企業のHSE担当者が自ら勉強して専門家となることは大変厳しいと考えられます。このEUの曝露管理技術を企業内に浸透出来ていないため、日本国内の製薬工場の曝露管理技術を企業内に浸透させなければならない現実が壁となっていると思います。この現実を後発医薬品製造会社がビジネスを100年存続してゆくためには打開してゆかねばならない大きな課題となると考えています。
 

 

 

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執筆者について

佐野 旭

経歴

外資系医薬品会社に入社後、建設プロジェクトや設備保全などを担当し、また関連会社においては、医薬品の検査・包装にも携わりました。その後は工場のHSE Managerとして工場長と共にHSE Global Standardの社内への浸透をさせるべく事業所内教育に力を注ぐ傍ら、たびたび海外の事業所へAuditに出かけてHSE Global Standardの重要性を身をもって学びました。
M&Aが始まり7回の会社統合を経験し、そのたびに工場閉鎖が発生し、その環境影響評価と土壌汚染対策を担当しました。
又、会社統合のたびにGlobal Standardが変わり、Global Standardの体質まで学ぶことになりました。
2006年に退職後、コンサルタント会社を設立し、今までの経験を生かしてHSEのアドバイザーとして、企業のHSE導入サポート、企業内教育、HSE Audit、社内教育、講演、講習会、建設プロジェクトサポートなどの仕事をさせて頂いて多くの企業様、学校、行政関係様にお世話になり、現在に至っております。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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