医薬品の技術移転のポイント【第18回】

2022/11/25 品質システム

スムーズな技術移転のための方法例について。

9.スムーズな技術移転のための方法例
 技術移転と言ってもいくつかのパターンがあります。それによっても異なります。
 1)研究開発部門から製造部門へ
 2)製造場所の変更に伴う技術移転
 3)レギュレーションの立場から品質保証部門の関わり
 
1)研究開発部門から製造部門へ
 研究開発は承認を取得するまでが使命&責任です。現在では承認書に製造場所、保管場所、外部試験機関、詳細な製造方法、原薬の製造方法(あるいはMF)を承認書に記載します。製造所が海外であれば、外国製造所認定が必要になります。そしてGMP適合性調査で適合にならないと、承認を得ることができません。研究開発はこのことを肝に銘じておかなければなりません。外国製造所認定、GMP適合性調査申請を行うためには、相手側の製造所の情報入手が必須です。研究開発部署は相手側と資料提供の契約を結んでおく必要があります。そうしないと必要な情報が入手できないあるいは遅延し、申請に支障をきたします。
 また承認を得る段階で製造所や保管場所がなくなるケースもあります。そうすると必要な情報が入手できません。そういう場合についても契約に盛り込んでおくことが必須です。

 研究開発部門から製造部門への技術移管をスムーズにするためにいくつかの方策があります。

①製剤研究開発の人が製造部門に異動
②製剤研究開発のある段階で製造から人を送り、その人が製造を研究開発部門と一緒に治験薬製造に関わる
③製剤研究開発と製造部門の人の交流
 

 様々な方法を模索しながら、行ってきましたが、なかなか上手く行きませんでした。その一番の理由は、研究開発部門の人は生産部門に行きたくない(もう研究開発部門に戻って来れないのではないかとの不安)と生産部門には余裕人員がないことでした。
 そこで研究開発部門から製造部門への技術移管会で技術の移転実施の確認を行ってきました。分析は、QCで追試を行って問題点を把握し、研究開発部門にFBしました。申請用安定性試験に入る前/このデータで申請することを確認する会、そしてPV実施前です。

 新規申請後でPV実施前に、製造所の規格委員会を開催し、その委員会で確認後は承認前でも製造部門で管理しました。製造所のQAが管理し、何か申請書の内容で変更があれば、研究開発部門が製造所のQAに変更提案を行うなど、QAで変更管理を管理しました。そして、PV計画・実施、評価を研究開発部門の協力下で製造部門が実施しました。

2)製造場所の変更に伴う技術移転
 古い製剤は、コスト削減のために委託する場合があります。また新製品の製造を行うために、製造のキャパシティを確保するため既存品を委託に出すこともありました。ただ委託に出すと製剤の製造技術と品質保証のノウハウは霧散していきます。移管書にしっかりとノウハウを残しておくことです。 
 新規製造所(委託先)の評価
①GMP監査
 製造のわかる人、QCのわかる人、監査する人のチームで評価しました。筆者(品責&QA長)は新規製造所は必ず訪問するようにしました。下記を知ることがとても重要になります。
 ・製造場所を知る ・人(相手)を知る ・(こちらを)知って貰う
 相手を知るのは、どんな人が製造/試験に関わっているかを知るためで、できるだけ多くの質問をしました。こちらを知ってもらうのは、品質トラブルが起きた時に言いやすいようにするためです。製造しているとトラブルは必ず起きます。その時に、一度も会ったことがない品責/QA長にトラブルは言い辛いです。でも面識があればそのハードルは下がります。訪問時にはできるだけ自分を開示するようにしていました。
 技術移管の様々なガイダンスが出ているので、参考に掲載しました。また2022年GMP事例集に委託先管理のこともありますので掲載しました。

平成17年度厚生労働科学研究 「医薬品・医薬部外品(製剤)GMP指針」 より
http://www.nihs.go.jp/drug/section3/hiyama070518-1.pdf
2.6技術移転
2.60 この指針の対象とする技術移転には、研究開発から製造への技術移転と、市販後の技術移転とがある。いずれの場合においても移転の対象となる技術に係る情報(関連する品質に係る情報を含む。)を文書化し、移転当事者間において必要な情報を共有化すること。
2.61 共有化すべき情報(文書)には例えば次のものが含まれる。
1) 研究開発報告書: 研究開発において得られた製品の品質研究開発、原料及び資材の規格、製造方法、試験検査法等製造技術に係る情報を明示し、それらの根拠を示した文書をいう。 
2) 技術移転文書: 技術移転の対象となる製品についての、製造方法、試験検査方法等製品仕様を定めた製品仕様書、製品仕様書に基づき作成された技術移転計画書等の一連の文書をいう。 
2.62 技術移転においては、技術を移転する側及び技術を受ける側ともに、当該技術移転に係る組織の責務及び管理体制を明確にすること。 
2.63 技術移転に係るすべての事項については、品質部門が承認又は確認を行うものとすること。 
2.64 技術移転の最終段階において、実生産規模での確認等により当該技術移転前後の製造品質の一貫性を確認すること。
 

 

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執筆者について

脇坂 盛雄

経歴 1979年エーザイ株式会社入社、9年間、品質管理と21年間、品質保証を担う。
専門領域はGQP品質保証、注射剤及び固形剤の異物対応、品質リスクの発見と低減対応 ・医薬品/食品の表示校閲、製品回収リスク回避対策 ・逸脱/苦情対応、変更管理(一変/軽微変更)対応。品質保証責任者(品責)、統括部長および理事を歴任し、2013年9月末に退職。
現在は企業のコンサル・顧問を行う傍ら講演会講師、書籍執筆などを精力的に行っている。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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コメント

吉武 孝 / 2022/11/29

ご無沙汰しております。E時代はお世話になりました。研究開発と工場のブリッジの為の生産技術部の立ち上げ、海外工場との並行立ち上げや技術移転、懐かしいです。実際の工業化という観点を理解して頂ける方が少ないというのも、難しい現実ですね。

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