製薬メーカーにおけるコア人財の育成【第1回】

2013/04/01 その他

 製薬産業は、2008年9月のリーマン・ショックを経て、自動車産業及び電気機器産業にとって代わり納税額(法人税、住民税及び事業税)第一位の産業となった。高学歴である国民と資源の乏しい国土に正に相応しい、知識集約型の産業が注目されている。政府は、これに応える様に国家戦略として、産学官共同プロジェクトである「医療イノベーション会議」を2010年11月に立ち上げ、2012年6月に「医療イノベーション5か年戦略」を策定して公表した。イノベーションをリードし、日本の経済成長に大きく貢献する製薬産業を育成するために大きく動き出したのである。
 さて、この様に期待を集めている製薬産業界も、現在、アンメット・メディカル・ニーズに対する強い要請、開発の成功確率の低下、開発費用の高騰、承認審査の厳格化、市場競争の激化、価格圧力の上昇、等の様々な大きな環境変化に晒されており、これらに対する各企業の対応が焦眉の急である。これらの多様で複雑な課題を解決するためのイノベーション施策として、とくに、個別化医療、戦略マーケティング、ステークホルダーとの連携が注目されている。
 
●個別化医療
 バイオマーカーについては、近年、研究開発が目覚ましく、これを有効に活用することによって、診断から治療効果判定までの一貫した個別化医療が可能となる。すなわち、標的疾患、標的分子を特定し、対象患者の効率的選択や開発効率を向上させ、有効性と安全性は勿論、服薬コンプライアンスの向上までをももたらすことができる。結果として、製薬企業、患者、保険支払者のいずれに対しても大きな便益をもたらすのである。
 
●戦略マーケティング
 製品価値最大化を図るためには、研究段階からマーケティングの考え方を取り入れることが重要である。すなわち、早い時期からアカデミアや患者団体と接触して協力関係を醸成したり、POC(Proof of Concept)前後でのサイエンス・テクノロジー視点からビジネス視点への切り替えをすることによって、資源投資の効率化を図り、結果的には製品力を高め、製品寿命も延長させることが可能となる。
 
●ステークホルダーとの連携
 研究から市販後までの全過程を通じた患者や医師・パラメディカル、さらに規制当局との連携強化が必要となる。患者や医師から寄せられるアンメット・メディカル・ニーズに応える研究、治療効果に加えて経済効果に関する評価、等々、ステークホルダーとの協同による課題解決を図る必要があり、これによって初めて真の社会貢献をもたらすことができるのである。

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執筆者について

熊谷 文男

経歴 筑波大学大学院客員教授、慶應義塾大学薬学部非常勤講師、東京薬科大学非常勤講師
1975年 中外製薬(株)入社。研究開発、プロジェクトマネジメント、人財育成などの業務を経験。米国駐在時には、国際開発も担当。国公私立大学、各種学会・セミナー、大手企業での講演や執筆は多数。現役水泳選手及びスキンダイビングインストラクター。製薬企業米国駐在員OB/OG会「アメリカファルマ会」会長、世界の難病の子供たちを救うNPO「荻田修平基金」 理事、就活支援組織「メディカルカレッジ」アドバイザリーボードメンバー、医薬品業界における「社会人基礎力研究会」アドバイザー、幼稚園理事長・園長、総合旅行業務取扱管理者、等。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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