ドマさんの徒然なるままに【第36話】不可思議な質問・Part 1
第36話:不可思議な質問・Part 1
既に年賀は過ぎてしまいましたが、あけましておめでとうございます。本年も『ドマさんの徒然なるままに』のご愛読のほど、よろしくお願いいたします。本話が、2022年のドマさん仕事始めと相成りました。
さて、筆者の師匠にあたる古田土真一先生、過去から業者さんによるセミナー、地方の行政・薬業団体による勉強会、さらに個別企業のインハウスセミナーなどの講師を依頼されることが多かった。そこには、質疑応答のコーナーもあれば、終了後の個別質問や相談もある。そんな質問・相談の中には、「ちょっと待ってよ。それって変じゃない!?」と思えるようなものも少なくないとのこと。そんな中でも、それって「おかしすぎるよ!」、「どうしてそうなるの?」と思えるものを、先生に成り代わってピックアップして紹介してみたい。
たまたま、古田土先生が、来月に治験薬関係*1のGMP Platformオープンセミナーの講師を務めるとのこと*2なので、数ある中から治験薬関係で多かったものをチョイスし、本話(Part 1)と次話(Part 2)の2回に分けて紹介することにしよう。
ちなみに、治験薬関係での質問や相談だから市販の医薬品は関係ないと思うのであれば、それ自体が問題で、根本の考え方や期待される要件はまったく同じ(単にこの手の質問は治験薬に多いというだけのこと)ですし、筆者としては市販品についても意識して書いていますので、その点をご理解いただきお読みいただければありがたい。
● ●●までやる必要がありますか?
医薬品におけるGMP省令でも、PIC/S GMPでも、そこに記載されている事項は、Minimum Requirementsである。やり方(手法・手段)はともかくとして、要件として求められていることに対して、やらない理由を見いだすことは至難の業であり、相当の根拠が必要である。
“治験薬関係で多い”という理由の背景には、頭から「治験薬は開発段階で未承認だから医薬品のような厳しいものは要らないはず」との思い込みから来ているものと推測する。この考え方自体が大間違いである。医薬品GMPであれ、治験薬のGMP*3,*4であれ、ヒトに投与するモノという意味での品質保証に違いはなく、あっては大問題である。まして治験(臨床試験)という信頼性が問われるシロモノへの使用であり、開発という製薬会社の命綱である。いずれ治験薬のGMPの話をすることもあるかとは思うが、結論だけ言っておく。「開発途上という情報が不十分な中での治験薬のGMPは医薬品GMPの応用であって、簡易版でもなければ、まして手抜き版ではない」ということである。
● 原材料メーカーとのQuality Agreementは必要ですか? さらに原材料に関するTSE/BSEフリー証明書は必要ですか?
率直に申し上げるが、医薬品と治験薬とで差がありますか? 要/不要の根拠に何を求めているんですかねー。そもそも事務的な観点で捉えた場合において、Quality Agreementは、ひな形(テンプレート)を作っておけば、大方の場合はそれを使えますよね。もし1回ポッキリの原材料(サプライヤーにはそんなこと言わないと思いますが・・・)であれば、それ用の簡略化した形のものを作っておけば良いだけですよね。逆に市販用までを見据えているのであれば、市販用のものを使えば良いだけで、適用範囲や期間で縛れば良いだけですし。
TSE/BSEフリー証明書については、投与されるボランティア(and/or 患者)の立場になって考えてくださいな。それを考えたら、必須なことは理解できるはず。議論の余地が無いんじゃないですか!? 自身の手間で被投与者をリスクと不安に陥れることは避けてくださいな。
● 原薬はともかく添加剤や包装資材サプライヤーまで監査は必要ですか?
この手の質問者に多いのは、一方では品質リスクマネジメント(Quality Risk Management:以下、QRM)について、SOPがあるとか、実施していると回答していたりすることである。必要か否かの判断に用いるのがQRMだと思うんですが・・・。FMEA等をやって数値化(定量化)することは有意義ですが、目的じゃありませんよ。QRMの意義の勘違いの良い例のように思います。一歩間違うと、QRMを形式化(一歩間違うと形骸化)することに繋げてしまう可能性すらあります。
ハッキリ言います。自分(自社)で必要性の有無を検討し決定できないのであれば、もはや品質保証を謳うことさえ疑問です。サプライヤー等の実態も含めてレベルが分からないのであれば。それは保証できないことを意味するはずです。本件の質問者としては実地(訪問)監査の必要性に関しての質問かと思いますが、実地とするか書面とするか、現状であればリモートによるバーチャルやハイブリッドとするかは、目的ではなく、手段・手法にすぎません。監査の本来の目的は、自身(自社)としてそれ良しとするか否か確信を得る情報の取得にあるんじゃないでしょうか(ここには、事前の質問状等による評価を踏まえて、それでOKとするか or実地を行うとするかといった判断も含まれます)。
それで騙されたら、どうするかって? そこまで疑ってかかるかどうかは、あなたの判断です。その判断の責任こそが、QAの然るべき業務だと思いますが、いかがでしょうか。
親切心として、敢えて治験薬に限定して回答するとしたら、添加剤であれば、初めて使用するモノなのか、当該治験薬の処方に必須(BioavailabilityやStabilityなどに強く影響し、代替もなく必要欠くべからず)のモノなのかといった点が品質リスクにおいて重要ですし、包装資材であれば、治験プロトコールに沿った包装形態限定の一時使用(安定性試験も最終治験の投与時までを確実に保証できれば良い)なのか、将来の市販品まで見据えた包装(申請用安定性試験にも影響する)なのかで大きく変わるんじゃないでしょうか。こういった点を品質リスクとして評価分析することこそがQRMだと思うのですが・・・。
ちなみに、本質問の背景に、前項・前々項と同様に、「治験薬だから」が根底にあるなら大問題です。治験薬であれ、市販の医薬品であれ、あくまで「品質ヘのリスクはどれくらい?」で考えましょう。そもそも、品質に起因しての重篤な問題が発生でもしたら、被害者からすれば、それが治験薬か市販薬かなんてどうでもいいことですし、「すいません」じゃ済まされませんよ! まして、安全性と有効性に未知の点があると言わざるを得ない治験薬だからこそ、品質を押さえておかないと治験同意書云々では済まされず、「予想外の・・・」なんて言い訳無用とされるんじゃないでしょうか。
治験薬のプロとして敢えて言います。治験薬については、たとえそれが暫定の設計や規格であったとしても、製造上and/or 試験検査上の品質(ヒトに投与しないと不明な安全性や有効性以外のファクターという意味)だけは未知でない状態、少なくとも予想外といったことが無い状態にすることは可能なはずです*5。
● 設備機器のクオリフィケーションや計測器のキャリブレーションは定期的に実施する必要がありますか?
必要か否かを言ったら、必要以外の答えは無いですよね。質問者の意図としては、市販品と違い使用頻度が低いので、“定期的”ということに引っかかっている訳ですよね。科学的に考えませんか?
クオリフィケーション・キャリブレーション共に、使用前は必須。使用後においての問題は、その実施のタイミングですよね。次に使うのかがいつになるか分からないのに・・・、ということで渋っているのであれば大問題ですよ。逆でしょ。次回使用がいつになるか不明なればこそ、使用後に早速実施し、挟み込んで安心を得るべきなのでは? クオリフィケーションであれキャリブレーションであれ、継続的に実施しているからこそ、その状態が安定に稼働していると言えるんじゃないでしょうか。敢えて言えば、設備機器に対するクオリフィケーションについては、該当する期間の製造品については品質試験から判定しうるとも考えられますが、数値と言うデータでしかない計測器についてのキャリブレーションについては、開発データ、ひいては申請データの信頼性を損ないますよ。そもそも機械類は、クオリフィケーション・キャリブレーションの実施直後に不調になることだってありますよ。それを設備等のリスクって言うんじゃないですかねー。
治験薬専用の設備等の場合、使用後に長期保管に入るのであれば、使用前に必ず実施、作業後に使用中の正常稼働確認の意味も込めて実施し綺麗にしてから保管するのが最も簡便かつ適切な運用だと思いますが、いかがでしょうか(洗浄におけるCleaning Hold Timeも同様です)。長期保管の期間の設定はって? それこそ品質リスクマネジメントの最たるものじゃないんですか? 逆に、もし短期間で頻繁に使用するならば、それって市販品の場合と同じなんじゃないですか? 市販品ではテキトーにやっていて、キチンと決めてないって? と言うならば別ですが・・・。
どうでしたか? 古田土先生から聞いた質問や相談の一部を紹介しましたが、笑えるのであれば、結構なことです。ただ、本当に笑っていられますか? ほんの少しでも思い当たる節があるのであれば、要注意ですよ。もう一度、開発段階という状況を鑑み、そこに使用する治験薬に求められる品質とは何かを考え直してみては、いかがでしょうか。なお、冒頭にも記しましたが、ヒトに投与し治癒・治療するというモノの品質に求められる本質は治験薬と市販医薬品とでの差異は無く同じですからね(先生に依れば、医薬品のセミナーにおいても類似の質問や相談を受けたことがあるとのことです)。
なお、今回は事務局のご配慮をいただき、来週に第37話としてPart 2を紹介しますので、乞うご期待!
では、また。See you next time on the WEB.
【徒然後記】
ボンドガールズ
ボンドガール(Bond Girl)と言えば、あの映画「007ジェームズ・ボンド」シリーズに出て来るセクシー美女のことである。当たり前だが、日常でそんなセクシー美女に遭遇することなど、単に見かけるというだけであってもまず無い。しかし一度だけ、これがボンドガールだと思えたことがある。
ドイツの某製薬会社からの導入品の話があり、監査を兼ねての出張となった。1度目は、もろ監査のため、筆者をリードオーディターとして数名のCMC関係者で出張。翌年、当時の製薬本部長が工場を視察したいということで、同行。相手の会社もエグゼクティブが来訪するということからか、ランチは前年のキャンティーン(社内食堂)から別個室のケータリングにグレードアップ。そこの給仕(ハッキリ言って、コンパニオンですわ)のためにいた女性2名に目が点!?
一人はブロンドで、もう一人は濃いブルネット。日本でもそうであるように、コンパニオンのお姉さん、美人でスタイルが良い。少なくとも、私の人生において、映画の中や夢(願望か?)を除いて、手が届くほどの身近な距離(あくまで物理的距離で比喩的表現ではありません)にそんな美人でスタイル抜群、しかも超セクシーなお姉さんがいたことなどない(奥さん、ゴメンなさい!! 貴方を除いてです)。こういう女性が、“ボンドガール”なんだと思った瞬間である。一生忘れないほどの美人、唯一の心残りは、この二人のお姉さんと一緒に写真を撮れなかった(撮りたいと言い出せなかった)こと。
ちなみに、ボンドガールが頭の中にあったためか、食事中に007の話を持ち出し、「Null Null Sieben(ドイツ語の007という数字の直読にあたり、ヌルヌルジーベンと読みます)」と言ったら、ドイツ語を知っているのかと尋ねられたので、知っているのは「Ich liebe dich(愛してる)」だけだが、使ったことが無いと言ったら、かなりウケました。
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https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T200901I0070.pdf
https://www.gmp-platform.com/seminar_detail.html?id=428
《参考》
治験薬GMP基準:平成20年7月9日付 薬食発第0709002号「治験薬の製造管理、品質管理等に関する基準(治験薬GMP)について」
http://www.nihs.go.jp/dbcb/TEXT/yakusyokuhatu-0709002.pdf
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