FDA査察の準備【第2回】

※元FDA査察官のレビューに基づき、加筆修正をしました(2017.01.24)

工場側の準備
医薬品製造受託機関(CMO :contract manufacturing organization)の場合、顧客が初めてDMFを活用する時、工場がFDAにより査察される可能性がある。企業がNDA、ANDA 及び503b申請を提出する時、申請を承認する前に工場が査察される可能性がある。承認前査察(PAI:Pre-Approval Inspection)の場合、FDAは通常2名の査察官を派遣する。一人はGMPゼネラリストで、もう一人がある分野の専門家である。専門家は、通常、FDA内で分野の専門家 (スペシャリストまたはエキスパート) として認められている査察官である、或いは化学者または微生物学者の可能性がある検査官であることが一般的である。場合によっては、エンジニアが専門家 (スペシャリスト) を担当することもある。通常、査察2~4月間前に、FDAは対象の企業に連絡し、査察の時期を確認し、出張計画を立てる (上記を参照。) 。その際、FDAが対象の企業に滞在するホテルを問い合わせることもある。TGA 及び EU査察の場合、査察官は直接その企業に旅費を負担させるがFDAの査察官は自分で旅費を支払う点が異なる。各企業は、公務員出張旅費に関する米国の連邦政府ガイドラインを閲覧し、所在区域でのホテル予算の最高額を調べることができる。 (https://aoprals.state.gov/content.asp?content_id=184&menu_id=78)
 
査察を受ける企業は、日常のビジネス連絡で英語を使わない場合、社内又は社外の通訳を指定すること。理想的な通訳はGMP基本知識を有し、品質に関する専門用語を熟知していることが必要である。できれば、企業の品質システムと作業を理解していることが望まれる。少なくとも、当局の査察の前に、社外の通訳に対しては1度は工場見学を実施すべきである。翻訳者は、査察官から質問されたことを翻訳するために、且つ企業代表者から質問されたことを翻訳するために、覚えておく必要がある。
 
査察の前に、調査員はしばしば工場の方針と標準作業手順書のリストの提示を要求する。組織図、OOS、OOT、CAPA、最近の文書/製造/実験室の変更、リコール、苦情などを請求する可能性もある。各文書が英語で作成されていない場合、査察官は英語に翻訳を希望する重要な文書(少なくともキーエレメント)を決めることになる。
 
企業は、米国で輸出される製品の、直接流通されるもの及び更に加工された後輸出されるものの両方について出荷記録を入手すること。これらの情報は、査察官によって要求された場合、直ちに利用可能な状態にすべきである。オープニング/イントロダクションミーティングでは、一般製品の流通情報が提示される。後で、査察官に要求された場合は、特定の流通情報が提示される。査察終了後、査察官が施設調査報告書(EIR)を作成する時に、これらの情報が必要である。通常、 EIRにその企業の米国代理店、客先、製品名と量及び予定された用途を含める。
 
周到な準備が査察成功の決定的な要素である。警備員を含め、査察に係る各関係者は、査察での各自の役目、責任及び決定権を把握すべきである。そして、調査員が工場に着く前に、会社の権利と関係する査察当局について熟知すべきである。もし、以前、同じ機関に査察されたことがあれば、査察の各関係者は、以前の査察レポート及び指摘された事項、そしてレスポンスと実施した対応策を熟知している筈である。
 
企業は査察のために施設を整えることー施設がよく保たれていることを示すために、できれば清掃、補修、ペンキの塗り直しなどを行う。査察の間、査察官に要求される文書をタイムリーに提示するために、控室を設置し、もし要求されたら書類を簡単に見つけ出し提示出来るように、提示が要求される可能性の文書・データの大部分をそこに保管しておくこと。理想的には、通訳を含め、各関係者に査察のプロセスおよび査察における各自の役目を理解させるために、事前に工場のモック査察の実施をすること。さらに、モック査察で工場の弱点と不適合事項を特定することができる。そして、この機会を生かして、工場は不適合事項を修正できる。査察前に修正するには時間が足りない場合、工場は査察官に提出する緩和プランの作成が薦められる。査察官は工場査察で同じ不適合事項を発見する場合、工場がすでにその不適合事項を特定し、緩和プランを用意しておれば、査察官は工場の所見にその不適合事項を記載しないこともある。
 
工場の見学者に見学者記録シート、秘密保持契約、事故が発生した場合に施設をあらゆる責任或いは義務から免除する免責声明などに署名してもらう方針を持つ企業もある。このような場合、企業はまず査察官に施設の手順の順守を要求すべきである。然しながら、調査員は一部の要求を断る可能性も多々あるので、企業はこのような状況の対応策を事前に用意すること。査察の実施を可能にしなければならない施設の経営陣に、そのために必要な事項の承認を得るのに堂々巡りすることはよくあることである。
 
査察準備の一部として、企業は、査察官が過去に実施した査察で発行した483/EIRとウォーニングレターを通して、査察官の背景と査察履歴を確認することができる。483/EIRとウォーニングレターはある場合にはFDAのウェブサイト (www.FDA.gov) から直接に、もしくは情報公開法(FOIA:Freedom of Information Act)により獲得できる。ほかには、一定料金を支払うことで、これらの情報を購入できる会社もある。査察官の背景と、例えば近年のデータインテグリティのようなFDA査察の注目点がわかれば、成功する査察の準備に繋がる。

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