続・医薬生産経営論 (現場のLow-Cost Operation)【第2回】

2014/05/19 製剤

経営とは、事業環境の変化に対し的確かつ迅速に対応すべく、新規事業・新規技術の開拓や既存事業の成長の未来を描き、株主・地域社会・従業員などのステークホルダーに対し成果目標(利益、配当、収入、安全・安心)を約束し、その約束を確実なものとするために、株主から預託された経営資源(資産)を経済的に活用することである。
全体最適(最大成果)の観点から、人・技術・組織・システムなどの構成要素ごとのVision(あるべき姿の目標)を設定し、その実現のための戦略(具体的施策)を策定し実行し評価することである。
 
しかし、直近20年の日本の生産経営の歴史は、人員削減、工場閉鎖(売却・委託を含む)、賃金抑制の歴史であり、畢竟、生産拠点の海外移転であった。
縮小均衡型(ダウンサイジング)の経営であり、何よりも、コスト競争力を強化するための最大の成功要因である技術力強化とInnovationを忘れていた歴史であった。
海外への生産拠点の移転は国益を著しく毀損した。近年の日本の貿易収支の赤字は、停止している原子力発電に代替する化石エネルギーの輸入コストの増加だけではなく、海外生産の増加によって、日本からの輸出が量的に増加しないからでもある。
 
経費節減とコストダウンとは異なる。経費節減は一過性の効果であっても構わない。他方、コストダウンとは継続的に効果が発現するものであり、すなわち、標準値の改善である。
コスト競争力とは、継続的に、組織的に、コストダウンを実践して行く能力である。従業員の改善へのモチベーション、コストを改善する技術力、そのための組織体制、そして、コストダウン施策を計画計上し実績をフオローするマネジメント上の仕組みなどを総合化したものである。
そして、日本の生産経営が真に取り組むべきは、縮小均衡型経営ではなく、コスト競争力の強化であり、強い現場づくりであり、そのための技術力強化とInnovationであったはずである。
 
強い現場とは、
 
 ・切替時間が限りなくゼロに近い多品種少量生産が可能
 ・標準値に対する(実績値の)高い実施効率
 ・最速のリードタイムと徹底された納期管理
 ・高度技術製品の先駆的生産開始が可能
 ・社会やお客様から信頼される品質と予防的な品質管理/品質保証体系
 ・無事故・無災害そして地域環境に対しやさしくクリーン
 ・従業員に対し十分に配慮された健康管理/衛生管理
 ・性別・学歴・国籍などによる差別がなく人事評価が公正・公平・透明
 
これらが、技術で生きる医薬品企業の「強い現場」の最低限の必要要件である。
経営者がいかに優秀であっても、現場が脆弱であっては、企業は絶対に成長しない。いかに優秀なドライバーでもパンクした自動車を走らせることができない、それと同様である。しかし、この厳然たる事実から逃避しようとする経営者も少なからず存在する。
大量の団塊世代が定年退職を迎えたとき、現場の技術継承の深刻さを危惧し現場に手を差し伸べた経営者はどれほど存在したであろうか。欠員の補充を拒否し、人員の減少や人件費の減少を自らの成果として密かに期待していただけではないのか。それとも、外国人の優れた経営幹部を多く招聘すれば、現場力は強くなると信じていたのだろうか。

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執筆者について

隠居 孝志

経歴 1972年武田薬品工業(株)入社。生産計画、設備計画、要員計画などの業務に従事。資材部長、生産管理部長、湘南工場長、監査役室長、コーポレートオフィサー・製薬本部長を歴任。
この間、武田アイルランド製薬建設や、グローバル生産体制の構築、BCP推進、環境経営の推進などに携わる。また、業務執行会議メンバーとして、会社全般の事業戦略・製品戦略・経営計画策定、及びミレニアム社、ナイコメッド社の買収などに参画。2012年11月退社。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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