FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(93)
7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
■ YYYY社 2023/9/15
施設:原薬工場
■ Observation 1
ラボの管理が不適切である。
B) テストが完了したサンプルへのアクセスが制限されていない。さらに、2023/9/11に完了したテストのサンプルが、QCラボにおいてテスト中のサンプルの横に置かれていた。分析の適格性を評価することがあるのでテスト完了したサンプルを保存していると口頭説明があった。しかし、そのことは文書にて規定されていない。
D) ガスクロマトグラフのソフトウェアとハードウェアが更新されたが、理論段数を計算する前に実運用されてしまった。
★解説:Observation 1-B
「分析の適格性を評価することがあるのでテスト完了したサンプルを保存している」とのことであるが、これは大変よいことである。FDAのOOSガイダンスの抜粋概要を紹介するので★印部分を参照されたい。ただし、使用したサンプルの保存に関する規定がなかったので指摘されている。その規定には以下などの記載が必要であろう。
・ アクセス制限
・ 誤使用防止方法
・ 汚染防止方法
・ 保存方法
・ 保存期間
・ 破棄のタイミング
■FDAのOOS(規格外試験結果)ガイダンス
Guidance for Industry
Investigating Out-of-Specification (OOS) Test Results for Pharmaceutical Production
2022年5月改定
当ガイダンスの抜粋概要
フェーズ1 ラボの調査
➢ 目的:OOSとなった原因を以下のどちらかに切り分ける
✓ 測定における異常
✓ 製造における異常
➢ ラボデータの正確性を初期評価する
可能であれば、テスト調製を廃棄するまえに初期評価する★
➢ 予期せぬ結果の説明ができない場合
✓ サンプル調製を維持★
✓ 上司に報告
➢ 報告を受けた上司は
✓ 客観的かつ速やかに評価を行い、ラボエラーか製造の問題かを解明
✓ 即座に評価することにより、最初の測定や調製に使用した実溶液、実テスト群、ガラス製品を再調査できる
★解説:Observation 1-D
「ガスクロマトグラフのソフトウェアとハードウェアが更新されたが、理論段数を計算する前に実運用されてしまった」との指摘である。筆者は分析経験はないがこの指摘を以下のように解釈している。
・ ガスクロが更新された場合、性能や精度は変化することがある
・ したがって、同じサンプルの分析結果は、旧ガスクロと新ガスクロで異なることがある
・ つまり、分析法が同じであっても旧ガスクロを用いた分析結果と新ガスクロを用いた分析結果は異なることがある
・ 言い換えると、旧ガスクロによる分析法において定めた規格値は新ガスクロによる分析法には適用できないかもしれない
・ それにもかかわらず、理論段数などにより新ガスクロの性能や規格値変更必要性などを確認することなく新ガスクロにより実運用を開始してしまった
この指摘はガスクロに限ったものではなく、分析装置に共通する課題である。分析装置が更新された場合、更新した新装置による分析法のベリフィケーションは必須である。
理論段数
理論段数とはカラムの性能を表す指標である。この数値が高ければ高性能なカラム、つまり分離性能の良いカラムであるといわれる。性能のよいカラムとは、カラム内でのピークの広がりが小さい。同じ装置であっても運転条件や分離しようとする物質によって理論段数は変化する。
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