オーナーのプロジェクトマネジメント【第24回】

2017/11/24 施設・設備・エンジニアリング

 前回は検証ステージ後の引き渡しのうち、コントラクターから製薬企業への引き渡しについて記載したが、今回は、製薬企業内のプロジェクトチームからユーザー部門(生産部門)への引き渡しについて記載する。今回でプロジェクトステージをベースにした記載は終了し、次回は最終的なまとめを記載する。
 
参考 以前に記載した記事の目次
 1.  はじめに
 2.  プロジェクトステージの概要
 3.  何をマネジメントするか
 4.  プロジェクト計画に関連する主要な問題点
 5.  プロジェクトマネジャーの役割と責務
 6.  プロジェクトマネジャーの資質
 7.  プロジェクトで使用することば
 8.  外部への依頼範囲
  9-10. FS(Feasibility Study)ステージ
 11-13. 基本計画(概念設計)ステージ
 14-16. 基本設計ステージ
 17. 発注方式
 18-19. 詳細設計ステージ
 20-21. 製作・施工ステージ 
 22-26.
 検証ステージ【その1~5】
 14-16. 基本設計ステージ
 27. プロジェクトの引き渡し(コントラクターからの引き渡し)


28. プロジェクトの引き渡し(製薬企業内の引き渡し)
製薬企業内の建設プロジェクトのスコープは、プロジェクトの規模や種類、あるいは製薬企業の方針により異なる。いずれにしろ、プロジェクトスタート時のスコープが実施済みとなると、プロジェクトチームからユーザー部門(生産部門)などへ引き渡しが行われる。そして、会計処理などを終了し、ドキュメントや情報の有効活用ができるようにして、プロジェクトを終結することになる。
 
(1)設備を受け入れる生産部門側の準備
 一般的に、新製品の場合のプロジェクトの開始は、工業化研究部門などからの技術情報を受けて、設備の建設プロジェクトが発足される。既設設備の増産などでは、生産部門などからの情報をもとに設備の建設プロジェクトが発足される。いずれの場合も、当然のことながら、生産を企画あるいは計画する部門が、プロジェクト発足のトリガーになっている。
 既設設備の増設や新規設備は、生産部門の組織に大きな変更を必要とするのが一般的である。設備が完成してもそれを受け入れる生産部門の準備ができていなければ、引渡しが遅れ、コストも増大する可能性がある。
 また、引渡しに合わせて、設備の受け入れ部門を準備するのでは、プロジェクトはスムーズには進まない。計画や設計段階から、操作性あるいは既設設備との関連性といった観点から生産部門の関与は必要である。さらに、コントラクターの所掌範囲の試運転においては生産部門としても立会いを行ったり、コントラクターからの引き渡し以前の段階で製薬会社が操作を行う試運転では、生産部門による運転が必要となる。したがって、引き渡し時点では受け入れ側の生産部門の体制は整っている筈である。
 
 むしろ、プロジェクト初期の段階から必要に応じた体制を順次作り上げていかねばならない。そのためには、主として以下のような準備をする必要がある。
 
 ・新設備を管理するために必要な組織の制定
 ・新設備を管理するために必要な追加スタッフ。
  オペレーター、技術者、監督者、および管理者などの準備
 ・社内にリソースが無い場合は外部からの採用の時期と方法
 ・スタッフが職務に就く前の教育訓練
 ・クオリフィケーション/バリデーション活動を行うための要員
 ・業務場所や什器等の準備
 ・メンテナンス計画と要員
 ・上記に伴う予算の確保
 
(2)プロジェクトチームから生産部門への引き渡し
 生産部門へは、設備と同時にドキュメントの引き渡しが行われる。設備の不具合については、一般に、数が少なく生産に影響しないような場合であれば、まず生産部門に引き渡しを行って、その後に不具合対策を継続するといった方法を採る。また、場合によってプロジェクトは解散して、レギュラー業務として残務処理をする場合もある。コントラクターからの引き渡しと同様に、生産部門への引き渡しにおいても部分引渡しを行う場合がある。部分引き渡しとするか一括引き渡しとするかは、プロジェクトの規模や種類などによって決まる。
 
 生産部門への引き渡しとして、設備の引き渡しはもちろんであるが、教育訓練の実施や、以下のようなドキュメントの引き渡しを行う。

①コントラクターから引渡されたドキュメント
 ・設計基準書
 ・各種仕様書
 ・設計計算書
 ・P&ID、フローシート
 ・マテリアルバランスシート、ヒートバランスシート
 ・機器リスト、計器リスト、モーターリスト
 ・一般配置図、機器配置図
 ・機器図
 ・建築図、基礎図、建築仕上げ表
 ・配管図、空調図
 ・電気図、計装図
 ・コンピューター関連ドキュメント
 ・施工要領書
 ・工事検査書、材料証明書、工事記録書、その他の証明書類
 ・FATを含むコミッショニングドキュメント
 ・クオリフィケーションドキュメント
 ・建築確認申請あるいは同様の許可証
 ・PHA、HAZOPなどの承認済みの安全面の文書
 ・オペレーションマニュアルとメンテナンスマニュアル
 ・保証書
 ・メンテナンス契約書
 ・予備部品一覧表(機器サプライヤーによる推奨予備品など)
 ・校正手順書と証明書、校正計器リスト
 ・潤滑油リスト
 ・その他

②プロジェクトからの引き渡しドキュメント
 ・プロジェクト実施報告書
 ・残業務リスト
 ・設計の基本条件
 ・コントラクター以外の発注先のドキュメント類
 ・運転操作要領書(SOPは生産部門で作る場合が一般的)
 ・クオリフィケーション関連ドキュメント(プロジェクトの所掌による)
 ・バリデーション関連ドキュメント(プロジェクトの所掌による)
 ・教育訓練書、記録
 ・各種官庁届書、許可書など
 ・固定資産台帳の元となる購入分の資料(勘定項目ごとの発注金額で、
  見積書などの税務的根拠資料)
 ・固定資産台帳の元となるプロジェク内発生費用
 (製薬企業のプロジェクトメンバーの設計に要した人件費、旅費その他)
 ・モーターリスト
 ・校正計器リスト
 ・保全計画の元となる資料
 ・その他

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執筆者について

星野 隆

経歴 1971年3月大阪大学工学部機械学科卒業後、同年4月武田薬品工業(株)に入社。2014年3月の同社退社までの間、同社および同社の関連会社における建設工事において、プロジェクト業務に携わった。プロジェクトの種類としては、医薬品、ビタミンバルク、調味料バルク、化学品、農薬等の生産施設をはじめ、研究所の建設にも携わった。また、国内外のプロジェクトや、他社との共同プロジェクトにも参画した。また、メンテナンスやユーティリティ部門のマネジャーの経験もあり、総合的なエンジニアである。
社外の活動としては、ISPE(国際製薬技術協会 : International Society for Pharmaceutical Engineering)の日本本部理事、常任理事を歴任。日本プロジェクトマネジメント協会理事。
現在は、個人コンサルタントStar Enterprise(プロジェクトマネジメント、エンジニアリング、イベント企画)。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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