化粧品研究者が語る界面活性剤と乳化のはなし【第9回】

2022/12/02 化粧品

レシピの魔力 化粧品における製剤・処方の開発について。

レシピの魔力  化粧品における製剤・処方の開発

 料理レシピの人気は根強くて、サイトで人気の時短料理から有名人の得意料理、有名料亭や三ツ星レストランの秘伝(?)の解説まで、動画や書籍を検索するとこれでもか!というくらいでてきます。そして、どの動画もサイトもわかりやすい解説がついていて、つい、ちょっと作ってみようかな、なんて気分にさせてくれるのでした。美味しいものの魅力は万国共通で、ヒトを楽しく、ちょっと幸せな気持ちにしてくれるものです。しかし、実際に美味しいものを作るのはやっぱり難しくて、にわか料理男子にはハードルが高いのでした・・・。
 
 このレシピづくり、化粧品業界でも無茶苦茶大切で、特にこの30年間の化粧品のテクノロジーとビジネスの発展は、かなりの部分レシピ、すなわち処方と製剤の進歩に支えられていた、と言えます。きっと、三ツ星レストランのシェフは普通のスーパーのもの食材を使っても、抜群に美味しいものを作れるであろうことは確実で、それは野菜の刻み方、鍋への投入の順番、塩コショウの加減や隠し味のような一見、ちょっとした違いによるものなのですが、実際に鍋の中でできた料理を解析すると、香り・うまみ成分の組成、油脂の分散状態、肉や野菜の固さ/柔らかさには誰の目にも明らかな決定的な違いがあり、美味しさの違い、さもありなん、という状況だったりするのです。

 化粧品業界ではこれまで、紫外線や乾燥から身体を守り老化を防ぐために皮膚科学を極め、ナノテク材料と情報科学を駆使して美を最大限に演出するためにレシピのブラッシュアップに励んできました。高い安全性が求められ、限られた原材料を利用して処方を組むためには、製造プロセスにおいて混ぜる順番をちょっと変えたり、既存の原料の組み合わせをコントロールすることで劇的に商品の機能を高め、時に新しい市場が誕生する界面化学的なアプローチは魅力的で、日本の化粧品メーカーはこの数十年間、この分野で世界をリードしてきたのです。

 1970年代には、それまで実用化が難しいとされてきた油の中に水滴が分散したW/O型エマルションを開発することに資生堂のグループが成功しました。ノニオン界面活性剤とアミノ酸を組み合わせることで、油をジェル状にし、水滴が運動・衝突を繰り返しながら合一することを防ぐことに成功したのです1)。アミノ酸を溶かした水と、天然由来の界面活性剤「グリセリン脂肪酸エステル」を合わせたことにより、「ゲル化乳化」が可能になりました。このW/O型エマルションは水をはじく撥水性を示すために、汗をかくとあっという間に崩れてしまっていたメイクが、何時間もきれいな仕上がりを保つことができることができるようになったのでした。
 

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執筆者について

野々村 美宗

経歴

山形大学 学術研究院化学・バイオ工学分野 教授 博士(工学)
花王株式会社において化粧料および身体洗浄料の商品開発に従事した後、山形大学に赴任。2017年より現職。専門は物理化学、界面化学、化粧品学。これまでに生体表面における界面現象のダイナミクス、界面活性剤を用いたエマルション・可溶化物・泡製剤の開発、化粧料・食品の触覚/食感センシングについて研究してきた。著書に『教授にきいた・・・ コスメの科学』、『化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学』(ともにフレグランスジャーナル社) などがある。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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