化粧品研究者が語る界面活性剤と乳化のはなし【第8回】

2022/11/04 化粧品

処方設計の隠れた主役??? 両親媒性高分子について。

処方設計の隠れた主役??? 両親媒性高分子

 ネットで化粧品を眺めていると、「界面活性剤不使用」なんてうたわれたアイテムがちらほら目につきます。もちろん、お店で売られている化粧品や身体洗浄料に使われている界面活性剤はどれも安全性が確認されたものばかりなわけですが、刺激に弱い方が使うアイテムにはできるだけ配合しないほうが良い、ということで、敏感肌用のクリームの中には、特に不使用をうたっていなくても、全成分表示の中にいわゆる界面活性剤が見当たらない、なんてことがしばしばあるのです。

 ただ、ちょっと待ってください! 界面活性剤を使わずに、どうやって皮膚の表面を覆って保湿するスクワラン・ワセリンなどの油脂や、バリア機能を強化して水分の蒸散や外部刺激から身体を守るセラミドを十分に配合することがでるのでしょうか? 十分な量の保湿成分を配合しなければ、十分なスキンケア効果が現れるはずもありません。ましておや、敏感肌の方には十分な潤いを供給する必要があるはず・・・。

 そんな時に、全成分表示をよくよく見てみると、必ず配合されているのが高分子材料なのでした。高分子というのは「分子量が大きい分子で、分子量が小さい分子から得られる単位の多数回の繰り返しで構成した構造」とされていて、デンプン・ペクチン・ゼラチンのような動植物由来で料理やお菓子にも使われる天然系のモノから、バリバリの合成系まで様々なモノが化粧品には配合されています。その中でもカルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールは昔から水相中に油性成分を分散するために、乳液やメイクアップ化粧料に配合されています1)。これらの高分子は疎水性のコロイド粒子や油のつぶつぶを包み込んで表面を親水的にして水の中に分散しやすくしたり、高分子の粒子同士が形成した三次元網目構造中に油滴を保持することで乳化物を安定化するとされてきました。また、現在ではアクリレーツ/アクリル酸アルキルクロスポリマー2)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)に疎水基のアルキル基と親水基のスルホン酸塩基を導入した水溶性両親媒多糖誘導体 HHM-HEC3)、疎水性のシリコーン鎖にエチレンオキサイド、ポリグリセリン等の親水基を結合させ、水と油の両方に強い親和性を持たせ、水の中に油を分散する乳化力を高めた両親媒性タイプの高分子が配合されているのでした(図)4)
 

 

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執筆者について

野々村 美宗

経歴

山形大学 学術研究院化学・バイオ工学分野 教授 博士(工学)
花王株式会社において化粧料および身体洗浄料の商品開発に従事した後、山形大学に赴任。2017年より現職。専門は物理化学、界面化学、化粧品学。これまでに生体表面における界面現象のダイナミクス、界面活性剤を用いたエマルション・可溶化物・泡製剤の開発、化粧料・食品の触覚/食感センシングについて研究してきた。著書に『教授にきいた・・・ コスメの科学』、『化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学』(ともにフレグランスジャーナル社) などがある。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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