いまさら人には聞けない!微生物のお話【第24回】

2022/09/02 その他

湿熱滅菌工程の確立。

15. 湿熱滅菌
15.2 湿熱滅菌工程の確立

滅菌工程を確立するには、事前に以下を決めておく必要があります。

① 対象製品、一次包装
滅菌の対象となる製品の仕様、および一次包装が決まっていること。
② 使用滅菌装置
使用する湿熱滅菌装置が決まっていること。
③ 滅菌時の載荷形態 注)
滅菌時、製品を一次包装の状態で滅菌するのか、個箱の状態か、流通に使う通箱で滅菌を行うのかを決めること。またその製品を滅菌器内で積載する方法を決めておくこと。
④ 温度限度
製品やパッケージの特性より、温度範囲、上限温度を決めておくこと。
⑤ 冷却(減圧)方法の要否
パッケージの蒸気や空気の透過性、製品の温度変化に対する安定性などより、Exposure工程終了後は直ちに減圧するのか、一定時間圧力を維持した後に減圧するのか、などを決めておくこと。
⑥ プレコンディショニングの要否
プレコンディショニングというのは、製品を滅菌装置に搬入するのに先立ち、一定の温・湿度に保った装置内やエリア(プレコンディショニング室)に置くことで、滅菌前の製品の状態を四季を通して一定に管理するものです。製品の特性や滅菌装置の仕様により、年間を通して安定して一定の条件にコントロールすることができれるのであれば、プレコンディショニングは省略することもできます。
 

注)載荷形態(Loading configuration)というのは、あまり耳慣れない用語ですが、製品をどのような形態および積載方法で滅菌を行うかということです。製品の温度管理を考えた場合は、バリアーとなる個箱や通箱が極力ない状態、すなわち一次包装で滅菌を行うのが有利です。しかし滅菌の有効性以外に製品の取り扱い、製造工程、流通などを考慮し、自社製品に適した形態を採用します。これはバリデーション基準では「滅菌載荷形態」として規定されています。
薬生監麻発0215第13号 滅菌バリデーション基準では、次のように定義されています。
「載荷形態」とは、滅菌装置又は照射容器への被滅菌物の幾何学的積載方法及び形態のことをいう」


なお滅菌装置を新規導入する際は、当該装置に対する要求も事前に決めておきます。
十分な耐圧性能、確実な工程コントロール、正確なセンサー類および記録計、安全機構、工程設定のFlexibility、缶体内部の攪拌機構、バリデーションおよび保守点検サービスの内容などが主な項目になります。信頼のおけるメーカー製で、EN285という規格に合致したものであれば安心ですが、事前に十分に評価しておく必要があります。単純に価格だけで機種を選定してしまうと、その後の滅菌工程の確立からバリデーションでトラブルが出ることがあります。

ここで製品載荷形態と滅菌装置への搬入の例を紹介します。この例では製品の個箱を専用のケースに入れ、それをパレットに積載して滅菌を行うというフローを示しています。載荷形態は、製品の形状、包装、滅菌装置のサイズや仕様などによって変わりますので、自社で決めなければなりません。滅菌の効率から見た場合、余計な障害物(包装)がない方が温度コントロールもし易く、また1バッチで処理できる製品量も多くなります。しかし製品の工場内でのハンドリングや全体的な物流も検討したうえで、滅菌時の載荷形態を決めます。

図17  製品の載荷形態~滅菌器への搬入の例

ここまでは決め事です。外部コンサルタントなどの意見を聞くことはあるかもしれませんが、基本的に社内で検討、決定します。一つ注意すべきは、パレットに多くの製品を積載するような場合、製品間にある程度の隙間を作る必要があることです。隙間がないと、蒸気の流通/浸透がうまくいかず、製品温度の上昇にむらができることがあります。これは後述するエチレンオキサイド滅菌でも同様ですが、積載した製品間には、ある程度の隙間を作ることをお勧めします。

ここからいよいよ滅菌工程の確立になります。湿熱滅菌において重要な工程パラメータは、温度、湿度(残留空気)、圧力そして時間です。湿熱滅菌やEO滅菌のように複数のパラメータを適正にコントロールすることが必要なプロセスでは、通常、時間以外の工程パラメータをあらかじめ固定(決定)しておき、時間を唯一の可変パラメータとして、微生物の死滅を時間の関数としてとらえ、10-6 に到達する時間を特定する、というアプローチがとられます。これが湿熱やEO滅菌における工程確立になります。

湿熱滅菌で最も重要な工程パラメータは、言うまでもなく温度です。特に重要なのは、製品の温度分布が常に安定して均一にコントロールできることです。滅菌工程は、製品や滅菌装置の特性により様々なものがあり得ます。上記で紹介したように、ISO17665-1では5種類の運転サイクルの例が紹介されています。ここでは代表的な真空脱気式飽和蒸気サイクルを取り上げ、滅菌中の製品温度を決める2つの要素について説明します。

一点目は、ジャケット温度です。先に説明しましたが、通常滅菌装置の缶体は2重構造になっており、ジャケットはその2重構造の部分を言います。ここに蒸気を循環させることで、滅菌装置の内壁温度をコントロールします。なお滅菌温度が低いエチレンオキサイド滅菌では、ジャケットに温水を循環させることもあります。

二点目は、蒸気の投入です。製品を所定の温度まで速やかに加温するため、まず滅菌装置を減圧し、内部に残存している空気を抜いていきます。減圧状態から蒸気(クリーンスチーム)を缶体内に導入し、再度減圧し・・・これを何回か繰り返すことで、缶体の残存空気をできる限り除去するとともに滅菌器に積載した製品の温度を希望温度まで上昇させます。残留空気をできる限り少ない状態にして、その上で圧力制御を行うことで、精度の高い温度管理が可能です。

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執筆者について

古谷 辰雄

経歴

株式会社シーエムプラス GMP Platform シニアコンサルタント
ジョンソン・エンド・ジョンソン、クリエートメディック、ボストン・サイエンティフックにて、滅菌管理、微生物管理、品質保証業務を経験した後、2013年に(株)シーエムプラス入社。
医療機器メーカー在籍当時、エチレンオキサイド滅菌のスペシャリストとして厚生科学研究班、各種滅菌関連委員会に参画。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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