いまさら人には聞けない!微生物のお話【第15回】

前回に引き続き、滅菌について解説します。
第三部 滅菌
3. 微生物の殺滅を続けていっても、決して0にはできない
冒頭で「滅菌では中途半端は許されない」などと偉そうに言っておきながら、いきなりの前言撤回です。
微生物の死とは、「増殖の能力が不可逆的に失われること」を意味します。そして多くの場合、微生物の死滅には「一定の条件下での死滅速度は、その時の生菌数に比例する」という規則性が見られます。つまり生菌数が多ければ多いほど、一定の時間内に死滅する菌数は多いということです。たとえば加熱処理など微生物が死滅するような環境に置かれた場合、ある時点ですべての菌が一斉に死滅する、あるいはある温度に到達した時点で一斉に死滅する、というわけではないのです。ちょっとイメージしにくいかもしれませんが、実は微生物には一定時間内に一定の割合の菌が死滅する、という性質があるのです。
モデル的に説明すると、以下のようになります。
- ある細菌を60℃の条件下に置くと、5分間でその群の90%が死滅する。(5分間で生菌数が最初の1/10に減少する)
- さらに続けて5分間処理すると、残った菌のうちの90%が死滅する。つまり最初にいた菌の99%が死滅するが、1%はまだ生残している。
- さらに続けて5分間処理すると、残った菌のうちの90%が死滅する。つまり最初にいた菌の99.9%は死滅するが、0.1%は生残している。
初発菌数を1,000として、具体的な数字で説明すると、以下のようになります。
- 1,000個の菌は、最初の5分間で900個が死んで100個が生き残る
- 残った100個の菌は、次の5分間で90個が死んで10個が生き残る
- 残った10個の菌は、次の5分間で9個が死んで1個が生き残る
ここまでは理解いただけると思います。しかし微生物が厄介なのは、その続きです。
- 残った1個の菌は、次の5分間で0個になるのではなく、0.1個になる
- 0.1個の菌は、次の5分間で 0.01個になる
- 0.01個の菌は、さらにその5分後には 0.001個になる ・・・・
生き物で0.1匹というのはイメージしにくいですが、微生物で0.1個とはどのような意味なのでしょうか?
これは最後の1個の菌が生き残っている確率が0.1=1/10であると解釈します。 事実、生残確率が0.1となるような条件で処理をした100個の製品を調べますと、当然バラツキはありますが、その中の10個前後には菌が生き残っているという結果が得られます。
これをプロットすると、図1のようになります。5分で一定の数ではなく、一定の割合(90%)の菌が死滅することをご理解いただけると思います。この時の90%の菌が死滅する条件をD値またはD10値と呼びます。
この意味するところは、処理時間を延長していくと、生菌数は限りなくゼロに近づくが、決してゼロにはならないということです。滅菌は「一匹残らず、すべての微生物を殺滅、または除去すること」という定義に対して、それが不可能になってしまいました。
注)ここでは説明のために5分ごとに90%の菌が死滅するとしましたが、死滅の速度は菌の種類、環境条件などにより大きく変動します。
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