いまさら人には聞けない!微生物のお話【第9回】

第二部 微生物のコントロールについて解説する。今回は、用語の解説・微生物について。
第二部 微生物のコントロール
1. 用語の解説
2. 微生物は不潔?
3. なぜ微生物管理が必要なのか?
4. 微生物を殺滅/除去する
4.1 加熱による殺滅
4.2 放射線による殺滅
4.3 化学物質による殺滅
5. 管理の対象としての微生物
5.1 微生物の好きなもの、嫌いなもの
5.2 設備/エリア
5.3 空気
5.4 製造用水
5.5 原料、資材
5.6 作業者の管理
5.7 清掃、洗浄、消毒
第二部では、製薬企業や医療機器企業において「微生物をコントロールする」ということに焦点を当て、解説します。
第一部の微生物の基礎で説明しましたように、微生物は極めて多種多様です。そのためあらゆる微生物を完全にコントロールするには、かなり強力な方法を用いなければなりません。しかし一方で医薬品などの製造現場を考えますと、毒性の高い薬剤は使えないなど、とれる対策には制限があります。そのため一口に「コントロール」といっても、単一の強力な方法というよりもむしろいくつかの比較的マイルドな(製品や作業者に悪影響を与えない)対策を組み合わせるなどの工夫も必要です。
本項では一般的な対応という立場から説明を加えていきます。従いまして工場の状況によっては必ずしも適切でない、あるいは不十分な対策であるかもしれません。個別のケースにつきましては、社内外のエキスパートの協力を得ることも必要です。
1. 用語の解説
「微生物のコントロール」に関連する用語は、日常生活でもしばしば目にします。特にCOVID-19が社会問題になって以降、その頻度は高くなってきているようです。
表1に主な用語、その英語表記および定義を紹介します。
用語 (日本語) (英語) |
定義 |
|
---|---|---|
滅菌 | sterilization | ① ある対象物に付着している微生物を、一匹残らず殺滅または除去すること。「滅菌」の結果、その製品は「無菌」になる。 ② 製品を生育可能な微生物が存在しない状態にするために用いるバリデートされたプロセス。 |
無菌 | sterile | 生きている(= 増殖能力のある)微生物が存在しないこと。 |
無菌性 | sterility | 生育可能な微生物が存在しない状態。 |
殺菌 | inactivation | 微生物を殺すこと。その行為を示す言葉。 |
消毒 | disinfection | 感染を防止するため、人に対する有害菌または目的とする菌のみを殺滅すること。 |
防腐 | preservation | 微生物の増殖を抑制すること。 |
抗菌 | antibacterial | 菌の増殖を抑えること。菌が棲みにくい環境をつくること。 |
除菌 | removing bacteria | 物理的・化学的または生物学的作用などにより、対象物から増殖可能な細菌の数(生菌数)を、有効数減少させること。(洗剤・石けん公正取引協議会) |
静菌 | bacteriostatic | 菌の増殖を抑えること。言葉の意味としては「防腐」に近い。 増殖を抑える対象が細菌の場合は”bacteriostatic”、真菌の場合は”fungistatic”という。 |
バイオバーデン | Bioburden | 滅菌前の製品に付着している生存している微生物。狭義にはその数(生菌数)を意味する。また広義には数、種類、および滅菌工程に対する抵抗性も意味する場合がある。 |
「滅菌」、「無菌」、「無菌性」、「消毒」、「防腐」は、いずれも微生物学的にきちんと定義されている用語です。「除菌」は洗剤・石けん公正取引協議会の定義はありますが、英語表記からもわかるように、日本独自の概念のようです。「殺菌」という用語は、しばしば耳にしますが、かなりあいまいな言葉です。英語はInactivation としましたが、日本語の「殺菌」にピタリ当てはまる英語はありません。
「抗菌」「静菌」は、それに該当する英語が形容詞であることからも推測できるように、どちらかというと対象製品や薬剤の性質を表す言葉と言えると思います。
2ページ中 1ページ目
コメント
/
/
/
この記事へのコメントはありません。
コメント