いまさら人には聞けない!微生物のお話【第7回】

2021/12/17 その他

無駄にはならない微生物のトレビア。

第一部 微生物の基礎編

<無駄にはならない微生物のトレビア>

微生物は食べることができる

微生物を構成しているのは、他の生物と同様にタンパク質、脂質、炭水化物、ミネラルなどです。栄養学的にも優れたもので、食べることができます。皆さん納豆、パン、ヨーグルトなどを食べているでしょう。熟成肉の好きな方もおいでになるでしょう。これらは積極的に微生物を食しているものです。時には微生物を薬として飲む場合もあります。乾燥した酵母や乳酸菌は、医薬品として販売されています。

1960~70年代に石油を原料にタンパク質を生産するという研究が盛んになされました。石油由来の炭化水素を微生物に摂取/増殖させ、その菌体を食料や飼料として利用するものです。現在はちょっと下火になっているようですが、将来予想される食糧難に際しては、またこのような研究が活発になるかもしれません。

ただし微生物の中には毒素、人間には消化できない化合物、ものすごく臭い物質などを作るものもいます。 それらは当然食べることはできません。


缶詰は腐らない

缶詰は、密封後に加熱処理を行います。その処理が完全であれば、腐ることはありません。通常缶詰の賞味期限は2~3年になっています。これは缶詰が腐る期限ということではなく、期限内であれば風味の劣化は少なく、おいしく食べられる、という意味です。

缶詰は1810年に発明されましたが、初期には滅菌不良から内部が腐敗する(嫌気性菌の増殖)ことがありました。1906年にアメリカで“Food and Drug Act” が施行され、変質した商品の流通が規制されたことで、その後滅菌の研究が進み、現代のような安全性の高い缶詰が提供されるようになりました。

例外ですが、主にスウェーデンで生産・消費される缶詰で「世界一臭い食品」として有名なシュールストレミング(塩漬けのニシンの缶詰)というものがあります。これはあえて加熱処理をせずに缶内で発酵が進むように製造されています。注) 缶内は空気がない状態、すなわち嫌気状態ですので、そこでの微生物の増殖は、嫌気的な発酵になります。嫌気的な発酵では、発酵生成物として様々な有機酸、アルデヒド、ガスなどができ、強烈な臭いを発します。著者はシュールストレミングは食べたことがないため、どんな臭いか正確には知りませんが、かつて嫌気性菌を扱った経験はありますので、想像することはできます。正直に言うと、想像したくないです。

注)日本では日本農林規格(JAS)で、缶詰は高温殺菌することが定められています。シュールストレミングは殺菌しないで製造し缶の中で発酵がすすむため、日本においては缶詰としては認められていません。


干物は腐るか?

干物は、わが国では一般的な保存食です。保存食というからには腐ることはないのでしょうか?

「干物は天日や風で水分を蒸発させて微生物が使える自由水の割合(水分活性)を減らすと共に、表面に膜を作ることにより保存性が高まる」(Wikipedia)とされています。
微生物が増殖するには、ある程度の水分が必要です。 どの程度の水分が必要かは、微生物の種類により異なります。仮に水分がゼロの干物が作れれば、それが腐ることはありません。砂漠でミイラ状態になった動物の死骸と同じです。通常は干物といってもある程度の水分が含まれますので、「生魚に比べれば腐りにくい」くらいに考えてください。


水分活性

水に塩や砂糖を入れていきますと、徐々に蒸気圧が低くなります。こういった溶液の蒸気圧の純水の蒸気圧に対する比を水分活性といい、通常Awで表します。たとえば1モルのショ糖(砂糖)溶液のAwは0.9806、1モルのNaCl(食塩)溶液のAwは 0.967です。

微生物には種類により生育できるAw の範囲が決まっています。多くの細菌ではAw が0.997~0.980 が適しています。好塩菌といわれるものは、0.75~0.85 程度のAw で生育します。真菌はAw=0.90あたりまで生育できます。
ジャムはAw 0.80以下ですので、腐りにくい状態といえます。ハチミツは永久に腐らないと言われています。それはハチミツの水分はわずか15~20%しかなく、Awは0.5~0.6 になっていることによります。ハチミツは確かに極めて保存性の良い食品ですが、湿度が高い場所に保存した場合、腐ることがあるようです。またAw0.5程度でも菌の種類によっては増殖するものもいますので、絶対に腐敗しない、とは言い切れないようです。


水は腐るか?

不純物を全く含まない純粋なH2Oであれば、これだけを使って生命を維持できる微生物はいませんので、腐らないといえます。しかし:
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純水なので最初は栄養塩、有機物は当然含まれません。それをコップに入れて静置すると、空気中の二酸化炭素、窒素酸化物、硫化物などが純水に溶け込み栄養塩となります。また、空気中の菌、カビの胞子などは最初は栄養が足りないので、繁殖せずに死にます。その死骸が有機物や栄養塩の基となります。そして空気中には菌以外にも塵などの微小な物質もあるのでそれらも水に落ちて有機物や栄養塩となります。
このように時間が経てば経つほど空気中から純水に栄養塩と有機物の基が入ってきますので、菌等が繁殖できる水に変わります。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14134207609

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執筆者について

古谷 辰雄

経歴

株式会社シーエムプラス GMP Platform シニアコンサルタント
ジョンソン・エンド・ジョンソン、クリエートメディック、ボストン・サイエンティフックにて、滅菌管理、微生物管理、品質保証業務を経験した後、2013年に(株)シーエムプラス入社。
医療機器メーカー在籍当時、エチレンオキサイド滅菌のスペシャリストとして厚生科学研究班、各種滅菌関連委員会に参画。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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