非無菌医薬品製造における微生物学的品質の考慮事項 産業界向けガイダンス【第5回】

2022/04/15 レギュレーション

【第5回】非無菌医薬品製造における微生物学的品質の考慮事項 産業界向けガイダンス

事例3:緑膿菌およびブドウ球菌による保湿クリームの汚染
2017年、乳児湿疹用保湿クリームの製造元企業が、製品が緑膿菌と黄色ブドウ球菌に汚染されていたことを報告した。この製品は15,000個以上が全国に流通していた。微生物定量試験の結果、製品には防腐剤が配合されていたにもかかわらず、細菌数が87,500 CFU/gであることが判明した。微生物汚染の根本原因は、天然由来の原料が同社での不適切な保管により汚染され、最終製品に微生物が繁殖したことにあると思われた。
 
同様に、2015年、液体制酸剤の販売会社が、全国に流通していた10万個を超える製品が有害微生物に汚染されていたと判断した。製品には緑膿菌が混入しており、総真菌数の値も高かった。12カ月にわたる保存品の評価に基づき、回収の範囲が定められた。汚染の根本原因は委託製造工程の問題に関連するものと思われたが、最終的な原因は特定されなかった。 

事例4:乳児用非水性クリームの過剰な汚染
2018年、米国の流通業者が、乳児のオムツかぶれ用の酸化亜鉛クリームを、OTC製品としての販売を意図して輸入したが、製品検査において、有害微生物による汚染が確認された。この製品は水性ではなく、固有の水分活性が低いにもかかわらず、細菌や真菌を過剰に含んでいた。検体の中には、好気性微生物数(TAMC)が350万CFU/mLや27,000CFU /mLといった非常に高い値のものもあった。検出された菌の多くは、バチルス属の芽胞菌であった。また、総真菌数(TYMC)も非常に高く、2700CFU /mL、39000CFU /mL、200CFU /mLが検出された。製造元は当該製品の全ロットを回収し、米国への出荷を中止した。 

事例5:外用クリームのエンテロバクター属菌による汚染
2018年、外用クリーム剤の製造業者が、製品のうちの数ロットがエンテロバクター属菌に汚染されていることに気づいた。この製品は、微生物定量試験の完了前に誤って出荷されており、そのために、微生物数が測定不能多数(TNTC)となっていた。含量に加え、通常その製品にはない異常に強い臭気が認められた。回収が開始された後、製造業者には、製品の強い臭気に関して、顧客からの苦情が寄せられた。微生物汚染の潜在的な根本原因として、充填装置の切り替え時の洗浄が不適切であったことが疑われた。今後の製品の微生物汚染を防ぐため、予防保全や出荷検査の手順の見直し、従業員の再教育など、いくつかの是正措置がとられた。 

事例6:アルコール消毒剤のセレウス菌による汚染
2011年、劣悪な製造条件で製造されたアルコール系消毒剤製品に、セレウス菌を含むバチルス属菌が混入していたことが判明し、この消毒剤に関連した有害事象が報告された。製造元を調査したところ、製剤、充填および保管時の汚染を防止するための適切な管理が行われていないことがわかった。また、設備の洗浄が不十分であることも確認された。これらの不備が今回の汚染につながったものと考えられる。製造元は、微生物汚染が確認された、およびその可能性があるとの理由で、アルコールプレップパッド、アルコール綿、およびアルコール綿棒の全ロットの全国的な自主回収を行った。

事例7: アスペルギルス属およびエンテロバクター属による原薬の汚染
2016年、ある原薬メーカーに対して、その原薬に様々なアスペルギルス種の菌によるTNTC/gレベルの真菌汚染があるという顧客の苦情が寄せられた。この原薬は、経口剤や注射剤の最終製品の製造のために、他の製造業者によって用いられるものである。この汚染の根本原因は、原薬の乾燥に使用された乾燥装置の部品に関連するものと思われた。是正措置として、原薬メーカーは、乾燥装置のダクトを更新して湿気が溜まらないようにするとともに、微生物汚染に対してより強固な管理ができるように、既存の予防保全やモニタリングの手順を見直した。この原薬メーカーは自主回収を開始し、1年間で数ロットの原薬が回収され、数社の最終製品メーカーがその影響を被った。汚染された製品に関連した傷害や病気の報告はなかった。

2014年には、別のメーカーによる回収が行われた。外用薬に配合されるバルククリーム基剤のメーカーで、バルククリームのカビや細菌の数、特にアスペルギルス属やペニシリウム属の値が高かった(他の微生物も含まれていたが)ため、数ロットを回収した。微生物が繁殖した根本原因は、製造上の指示が不十分であったため、担当者が防腐剤を対象の各ロット全体に均一に行き渡るのに必要な量よりも少なく添加したことであった。また、最終製品を製造する際に、クリームを最終容器に封入していたため、製品が冷却される際に水分が発生し、この水分によってカビが繁殖していた。影響を受けたロットの微生物定量試験では、すべてのロットにカビの繁殖が確認され、対応する微生物確認試験では影響を受けたロットの防腐剤の量が少ないことが確認された。今後の過ちを軽減するために、バルククリームメーカーは、バルククリームの各ロットに防腐剤が確実に均一に行き渡るようにするため、製造手順と工程を修正した。

事例8:賦形剤に起因する真菌汚染
2001年、ある製造業者が、グリブリド錠剤の45ロットを真菌汚染の理由で、回収した。この汚染源は、製剤に使用されていた充填剤/結合剤の賦形剤であることが判明した。その後のFDAの警告状では、同社が、真菌汚染の汚染源を特定し、同じ賦形剤を使用して製造した他のグリブリド錠のロットを特定するための適切な調査を行わなかったこと、および賦形剤の適切なサンプリングと試験を行わなかったことが指摘された。追加調査の結果、賦形剤製造工場で賦形剤を化学合成する際に、賦形剤の乾燥工程で使用する空気が季節性の真菌胞子で汚染されていたことが判明した。 

事例9:シュードモナス属およびバークホルデリア属によるエレトリプタン臭化水素酸塩製剤の汚染
2019年、ある企業がエレトリプタン臭化水素酸塩製剤の2ロットを回収した。理由は、これらの製品ロットがシュードモナス属およびバークホルデリア属の存在可能性に関する微生物規格に不適合であったからである。一般の人々にとって、これらの微生物のリスクは低く、一時的な胃腸の不調はあるかもしれないが、重篤な感染症は伴わない。しかし、特定の脆弱な患者層(免疫系が低下している患者、嚢胞性線維症や慢性肉芽腫性疾患の患者など)にとっては、これらの菌による汚染は、生命を脅かす感染症を含む重篤な有害事象を引き起こす可能性がある。

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執筆者について

脇坂 盛雄

経歴 1979年エーザイ株式会社入社、9年間、品質管理と21年間、品質保証を担う。
専門領域はGQP品質保証、注射剤及び固形剤の異物対応、品質リスクの発見と低減対応 ・医薬品/食品の表示校閲、製品回収リスク回避対策 ・逸脱/苦情対応、変更管理(一変/軽微変更)対応。品質保証責任者(品責)、統括部長および理事を歴任し、2013年9月末に退職。
現在は企業のコンサル・顧問を行う傍ら講演会講師、書籍執筆などを精力的に行っている。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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