医薬品開発における非臨床試験から一言【第61回】
14C-標識体を利用した薬物動態試験
14C-標識体を利用した薬物動態試験は、ICHガイドラインに沿って血中濃度、組織分布と全身オートラジオグラフィー(WARG)、そして尿・糞・呼気中排泄などの考え方を提案しました。今回は、14C-標識体を利用した試験の準備と関連情報、さらに試験実施のタイミングを示します。
14C-標識体を利用した非臨床試験では、化学構造のどの部位を14C-標識するかが重要です。この時に3H-標識体の選択も考えられ次回に取り上げます。一般的に被験物質の代謝過程を十分に吟味して14C-標識部位を決定します。14C-標識部位が簡単に代謝されて本体構造から外れると、14CO2となって呼気中に排泄されるので注意が必要です。
生理的な物質(アミノ酸、糖質、脂質と関連物質)で14CO2の呼気中排泄が主なら注目しますが、そうでない場合は、できるだけ14CO2排泄が生じないような標識部位を考えます。14CO2排泄が起きると、14C-アミノ酸生成も推定され14C-タンパク質の放射能測定を行います。また体内での非特異的な共有結合も考慮します。
被験物質の化学構造に依存して2分割に代謝される場合は、薬理活性部位を考慮して14C-標識体を合成して薬物動態を追いかけます。つまり被験物質の代謝過程と薬理作用を考えて、合成コストも含めた合成過程に無理がないように14C-標識部位を決定し、標識体を用いた全ての非臨床試験の必要量を概算して14C-標識体合成を外部委託します。もちろん幾つかの標識部位を想定して見積もりを取りますが、合成過程を十分に考えて収率の良い14C-標識体合成法でないと、とんでもない費用になります。
14C-標識体の合成では、前駆体となる汎用構造の14C-標識体(前駆体、合成原料)が準備されており、非標識体の合成法と異なる場合もあります。また代謝過程を考えて標識部位を変えて2種類の14C-標識体を合成して試験を行った事例もあります。そのため14C-標識体を合成するタイミングや標識部位の設定には、非標識体を用いた代謝試験などの薬物動態試験の情報が蓄積されていないと確信を持って取り掛かれません。
14C-標識体の使用では、放射化学的純度検定と必要に応じた精製も重要です。標識体の安定性は、非標識体と異なる場合もあります。「放射能の影響」と考えたら簡単ですが、標識体は少量合成で初期の純度もさほど良くなく不純物も多いのが不安定な要因です。ただし、14C-標識体が結晶構造で提供されると比較的安定で、入手後10年以上が経過しても純度が全く下がっていなかった事例もあります。逆にアモルファスのような非晶形あるいは溶液での提供では不安定な場合もあります。これらを考慮して14C-標識体の原薬は定期的に純度検定を行い、必要なら精製を試みます。精製法は化合物ごとの課題になり、試験で使用する場合は非標識体で希釈してカラムでの精製を行い純度検定します。
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