製薬メーカーと臨床現場とのギャップ【第1回】
0.はじめに
「新しい薬が発売になりました。●●科の▲▲先生から使いたいとの要望がありましたので、採用の手続きをお願いします。」
ある日、薬剤部にMRさんが嬉しそうにやってきました。病床数の多い大規模な病院で採用されれば使ってもらえる患者数も多く、その分売り上げも増えますのでMRさんも嬉しいでしょう。また、画期的な新薬が開発されたのであれば、待ち望んでいた患者さんのために1日も早く使ってあげたいというのが医師の心情ではないでしょうか。
ここでポイントとなるのは「画期的な新薬」という点です。医療上、画期的と言われる新薬は、そう簡単に出てくるものではありません。開発の難しさについては次回以降に触れますが、新発売される薬剤の多くは、既存の薬剤に新たなメリット(新たな効果、少ない副作用、異なる製剤特性など)が付随したものです。そのような薬剤をMRさんの勧めに従って際限なく採用して在庫していたら、病院はあっという間に財政破綻してしまいます。
今回はそんな製薬メーカーと臨床現場のせめぎ合いについて触れてみたいと思います。
1.国内の医薬品数
2012年の1年間に承認された医薬品数は120品目であり、新有効成分含有医薬品が45品目、新効能医薬品が41品目、新用量医薬品が20品目と続きます1)。2003年から2012年の10年で発売された新有効成分医薬品は285品目にものぼるのです1)。
厚生労働省によると2013年7月1日時点で、国内で販売されている(薬価収載されている)医薬品は16994品目(内用薬10211品目、注射薬4128品目、外用薬2628品目、歯科用薬剤27品目)です2)。
2.医薬品の採用
当院における採用医薬品数は約2000品目ですが、これは他の大きな病院と比べてもそれほど差ありません。新たな医薬品を採用する際には、既に採用している類似した医薬品や、医師からあまり処方されなくなった医薬品等、医療上必要性が低くなった医薬品を削除していくことが多く、これを1増1減の原則と呼びます。およそ8割の医療機関が1増1減で運用しているという報告もあります3)。
病院の勤務医が、採用品として医薬品を新規に処方するためには、院内(薬事委員会等)で審査され承認を得る必要があります。
当院の場合、新たな医薬品を院内で採用する場合、まず医師が薬事委員会に採用申請を行います。医師や薬剤師等で構成される薬事委員会は、2ヵ月に1度開催されます。1増1減の原則に基づき、医薬品の有効性、安全性や新規性などの見地から、採用するかどうかの検討を行い、承認されて初めて処方が可能になります。
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