私が経験したあれやこれやの医薬品業界【第7回】

製薬協海外事業

連載6回目から間が空いてしまいましたが、製薬協(日本製薬工業協会;研究開発型製薬企業の業界団体)勤務の話で再開します。

2011年から、製薬協の海外事業(国際委員会活動)を担当する新しい仕事が始まりました。そもそも業界活動とは何のために、どんな活動をするのかを全く知らないまま、仕事が始まりましたが、こんな世界があったのか!びっくり、という連続でした。

ある製薬企業が厚労省に陳情に行っても、民間企業一社のために政府が動くことはありませんが、業界団体としての意見陳述は民間企業セクターの意向として認識され、政策にも反映されることがあります。政府から業界に対する行政指導や情報提供には業界団体を活用するので、製薬協の各委員会(ICHも含め)は厚労省をはじめ日本政府と常にやり取りがあります。国際委員会活動はそのような活動を日本政府および海外の政府に対しても行う活動です。
例えば、英国がBrexit(EU離脱)を決めた後、英国政府およびEU政府に対して日本製薬協として要望事項を含めた意見陳述の文書をタスクフォースチームで作成して、英国保健省に提出しました。英国政府とは毎年の定期会合(英国政府は、日本の製薬企業の英国への進出、投資誘致が目的)など長年の関係もあり、文書を出して終わりの一方通行ではない意見交換や情報交換のやり取りも可能でした。
別の例では、2016年に日本が議長国でG7伊勢志摩サミットが開催されましたが、ここでフランス政府が強硬に薬価問題を議題に取り上げる提案をしてきました。C型肝炎治療薬の高薬価がフランス国内でも問題になっていたことが背景です。米国と日本は、薬価問題は各国の薬価制度が異なるのでG7の議題ではないという論拠で反対の立場でしたので、G7各国の製薬協と打合せをしながら、外務省、厚労省の担当者と電話や面談で米国、欧州諸国の思惑についての情報を日本政府に提供しながら、業界の主張を発信しました。結果的にはG7会合の議題とはなりませんでしたが、薬剤価格については継続して世界的な課題となっています。

こんな世界があったのか!という別の事例はWHO(世界保健機関)が主導するグローバルヘルス関連の活動です。グローバルヘルスというのは耳慣れない方も多いかと思いますが、私もグローバルヘルスという言葉と概念を知ったのは製薬協に来てからでした。健康問題は国単位ではなく、グローバルレベルで解決すべき課題であり、世界の政府、アカデミア、民間企業が協働で取り組むべき課題である、という概念です。当初は国境を越える人の移動による感染症対応がメインでしたが、非感染性疾患と呼ばれる、癌、糖尿病、循環器疾患、慢性呼吸器疾患などもグローバルヘルス課題になっています。WHOだけでなく、国境なき医師団など多くのNGOがグローバルヘルス活動をしています。ゲイツ財団などの世界的メジャー財団も多額の資金援助と具体的な取り組みを行っています。取組の多くは、“顧みられない熱帯病”や3大感染症(マラリア、結核、HIV)をはじめとする開発途上国における疾病、健康問題を解決しようとするものです。製薬業界も新薬開発、医薬品の無償提供などで貢献を求められています。ジュネーブにあるIFPMA(国際製薬団体連合会)が国際製薬業界団体としてWHOなどに対しての業界活動をしており、日本の製薬企業、製薬協も深く関わっています。
 

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