医薬品工場建設のノウハウ -プロジェクトの成功に向けて-【第4章-1】

2017/04/20 施設・設備・エンジニアリング

プロジェクトを成功に導くための手順について、ユーザー(製薬会社)の視点で紹介する。

【第4章-1】医薬品プロジェクトの進行-1

監修:中尾 明夫
執筆:末包 聡史

第4章-1 目次
4.1 医薬品プロジェクトの遂行について
  4.1.1 C&Qに対する戦略の立案
     (1) プロジェクト管理のカラム
     (2) ユーザー要求のカラム
     (3) エンジニアリングのカラム
     (4) バリデーション/クオリフィケーションのカラム
     (5) コミッショニングとクオリフィケーションの関係

  4.1.2 ユーザー要求(UR)の具現化
     (1) ユーザー要求(UR)とユーザー要求仕様(URS)
     (2) ユーザー要求概要書(URB)
     (3) ユーザー要求仕様書(URS)
  4.1.3 システムインパクトアセスメント(SIA)の手順
     (1) 工事区分(新設、移設、改造)の記入
     (2) SIAの実施
     (3) クオリフィケーション実施区分の決定
     (4) クオリフィケーション管理番号の決定
  4.1.4 CSV実施方法の評価
     (1) コンピュータ化システムの形態分類
     (2) コンピュータ化システムのソフトウェアのカテゴリー分類
     (3) CSV実施要領の決定
  4.1.5 QDM(Qualification Document Matrix)の作成
  4.1.6 クオリフィケーションテストアセスメント(QTA)の手順

※今回は『4.1 医薬品プロジェクトの遂行について』の前半として、4.1.1項を掲載する
 


 
4.1 医薬品プロジェクトの遂行について
基本計画及び概算の予算が承認され、漸くプロジェクトは次のフェーズに進むことになる。

基本計画段階で、ユーザーのプロジェクトチームは自分の作りたい施設・設備に対して夢を語り膨らませ、様々な検討を経て、実現可能と思われるユーザー要求(UR:User Requirement)を設定する。忙しくはあるが、技術者としての知識も拡がり、非常に楽しい段階でもある。

次に、基本設計の段階では、これらのURを具体的なユーザー要求仕様(URS:User Requirements Specification)に展開しなければならない。各分野の専門家(SME:Subject Matter Expert)を交えて、詳細な検討が必要になる。基本計画で設定したURが、技術的、予算的に不可能な場合もあり、心ならずも見直しが必要になることも多い。

膨れ上がった費用を予算内に収めるため、プロジェクトスケジュールを遅らせてでも、VE(Value Engineering)や CD(Cost Down)検討を強いられるケースもある。

幸運にもこの過程を通らなくてよいプロジェクトもあるかもしれないが、筆者は、自身の経験から、ほとんどのプロジェクトにとって、避けて通れない過程と考えている。社内外からのプレッシャーも強くなり、プロジェクト担当者にとっては辛く厳しい時間となる。

いま現実にこの段階で苦労されている読者の方々には、この場を借りて、この段階は、避けて通れない「生みの苦しみ」の過程であり、成功を収めた幾多のプロジェクトも、ほとんど例外なく通ってきたということを、お伝えしておきたい。

さて、実現可能なURSをまとめることと同様に、この基本設計の段階で行っておくべき重要事項がもう一つある。それはC&Q(Commissioning and Qualification)に対する戦略を決定することである。
 

PIC/S GMP Guide Annex15, Principle:

It is a GMP requirement that manufacturers control the critical aspects of their particular operations through qualification and validation over the life cycle of the product and process.


製品やプロセスのライフサイクル全体のクオリフィケーション及びバリデーションを通して特有の作業のクリティカルアスペクトを管理することはGMPの要求事項である。


とあり、少なくともこの文章を含め、Annex15をどのように理解し、バリデーション/クオリフィケーションの戦略をどのように決定したかを、関係者で共有し、文書化しておくことである。

もう少し具体的に言えば、作成したURSが製造プロセスや製品品質のリスクアセスメントによって特定した重要な特性(CA:Critical Aspects)を実現可能なことを、設計・施工・試運転を通して検証するための戦略を策定することである。

 ※注:この例は一例であり、CQA、CPPからCAを特定し、特定したCAを基に
  URSを作成するケースもある。

本項では、基本設計の段階で実施しておくべき事項のうち、最低限押えておくべき作業について、詳細に説明したい。

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執筆者について

末包 聡史

経歴 株式会社シーエムプラス 代表取締役社長。
1985年、大手エンジニアリング会社入社。国内外の化学プラントの現場工事管理を経験後、1989年にライフサイエンス系プロジェクト部門に移動、以後20年にわたり、合成原薬、点眼剤、固形製剤、バイオ、注射剤等、多岐にわたる種類の医薬品工場建設プロジェクトにおいて、エンジニアリング・マネージャー、プロジェクト・マネージャー、プロジェクト部門グループリーダーを歴任。
2006年には、プロジェクト・マネージャーを務めたプロジェクトが、ISPE2006年ファシリティーオブイヤー・ファイナリストを受賞。 また、2009年には海外プロジェクト部門に移動し、エネルギー、非鉄関連のプロジェクトで、プロジェクト・コントロール・マネージャー、エンジニアリング・マネージャーとして、メガプロジェクトの運営に携わる。
2015年株式会社シーエムプラス入社。プロジェクト・マネージャーとして、国内ライフサイエンス系プロジェクトを担当。2015年9月取締役就任。2018年4月に代表取締役副社長。2020年7月代表取締役社長に就任。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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