非無菌医薬品製造における微生物学的品質の考慮事項 産業界向けガイダンス【第4回】

2022/04/08 レギュレーション

【第4回】非無菌医薬品製造における微生物学的品質の考慮事項 産業界向けガイダンス

3.  微生物学的考察―特殊なケース
このセクションでは、非無菌医薬品の処方および意図された用途のうち、患者集団に害を及ぼす有害微生物やバイオバーデンに関する相対的なリスクが本質的に大きい例(例:皮膚を切開する医療処置の前に皮膚に非無菌医薬品を投与する場合)について述べる。この事例は、製品の危険性を理解するためには、これらの製品のバイオバーデンをより厳密に特定し、評価することが重要であることを示している。適切な実験方法を用い、資格のあるスタッフが結果を確認して、製品が有害微生物に汚染されているかどうかを判断しなければならない。  
これらの方法では、問題のある微生物を区別し、特定する必要がある。このようなロット品質情報は、消費者に危険をもたらす不都合な汚染製品の流通を防止し、品質問題を是正または防止するための原因調査を促進するために重要である。 

a. セパシア菌群(Burkholderia cepacian Complex; BCC)および水性製剤
医薬品の水システムにBCC微生物が存在する可能性があるため、非無菌水性製剤にはBCC微生物汚染の可能性がある。バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)は、現在、少なくとも17の 遺伝子学的に近縁な種(genomovars)の複合体の一部と考えられている。 

これらの微生物は、生命を脅かす重篤な感染症を引き起こす可能性を有する日和見病原体である。BCC微生物に固有の特性と安全上のリスクを考えると、非無菌水性製剤にBCC微生物が含まれないことが重要である。BCC菌株は、多種多様な基質をエネルギー源として利用する能力を有しており、その基質の多くは従来の防腐剤システムであることが明らかになっている。そのため、非無菌製剤に適切な防腐剤が含まれていても、BCC菌株はその製品の有効期間にわたって生存し、増殖することができる。最終製品出荷時の微生物計数検査で、総好気性微生物数が許容レベルであっても、その製品が患者に届くまでの間にBCCが安全でないレベルまで増殖する可能性がある。2016年5月、FDAは、米国疾病対策予防センター(CDC)より、9州13病院の患者にBCCに関連した重篤な疾患と死亡が発生したとの通知を受けた。これにより、BCC汚染による非無菌OTC液体便軟化剤の回収が行われた。2000年から2002年にかけて発生した医療機器(超音波診断用ゲル)に関わる一連の事例では、経直腸的前立腺生検においてゲルを使用した後、ゲルに混入していたBCCによる重篤な血液感染が発生した。 

医薬品におけるBCC発生源として最も可能性が高いのは、製造工程で使用される製薬用水と天然由来の原料である。そのため、製品品質と患者の安全性を確保するためには、以下を含むCGMPの徹底した実施が不可欠である。 

・BCC汚染を防止するための作業の設計と管理に関するリスクマネジメントプログラムの確立
・堅牢な水システムの使用 
・原料がバイオバーデンに関する適切な規格を満たしていることの確認
・設備の適切な殺菌と洗浄、および
・BCC が存在するかどうかに関して、検証されたサンプリング手順を用いた工程モニタリングおよび最終製品検査を日常的に実施すること。 

製造業者が、BCCを製品から排除するための検証された工程(例:バルク製剤の充填工程の直前で、滅菌フィルターを用いた微生物捕集濾過を行う)を行わない限り、非無菌水性製剤にBCCが存在しないことを証明するための一連の管理の最後の段階として、出荷試験が不可欠である。 

USPには、2019年12月1日に正式となったBCCの公定試験法が掲載されている。章のタイトルは〈60〉MICROBIOLOGICAL EXAMINATION OF NONSTERILE PRODUCTS-TESTS FOR BURKHOLDERIA CEPACIA COMPLEX(非無菌製剤のセパシア菌群に関する微生物検査)である。FDAは、製造業者に対して、BCCの有無に関する検査において、USPのこの章に収載されたUSP法を使用することを推奨している。代替の社内試験法を開発することを選択した場合には、その試験法や手順は完全に検証されていなければならず、公定試験法と同等の結果が得られなければならない。さらに、代替法の開発を選択して申請を行う場合には、BCCは適応性が高く、様々な環境で生存・増殖する能力が変化するため、試験法が複雑になる可能性があることを認識しておく必要がある。BCCを検出し、正しく同定・分類することは困難な場合があり、回収方法の開発にはBCCを構成する菌種が示す多様な表現型を考慮することが不可欠である。

b.  術前の皮膚処置剤(局所消毒剤)
皮膚は通常微生物で覆われているため、医療処置や注射の前に皮膚上の微生物の数を減らすために、局所消毒のための医薬品である患者用の術前皮膚処置剤が用いられる。これらの製品の中には、無菌製品として製造されていないものもある。しかし、消毒剤に関連した微生物の汚染による感染症の発生が多数報告されている。注目すべきは、2009年から2013年の間に発生した非無菌製品の回収の大半が、汚染された消毒剤製品であったことである。アルコールやポビドンヨードを含んだプレップパッドの微生物汚染による製品回収は8件あった。 

製品表示のみからも(手術を受けようとしている身体の表面への使用)、また、最近の感染症の発生状況や製品の回収状況からも、製品の無菌性が重要なリスク軽減策となっているか、または臨床結果に重要な影響を与えている可能性があることがわかる。2011年、FDAは最近の汚染事件を受けて、ニュースリリースを発表し、医療従事者に対して、アルコールプレップパッドのラベルを確認して、無菌か非無菌かを判断するように注意を促した。FDAは、厳格な無菌対策を必要とする手技には、無菌パッドのみを使用することを推奨している。  FDAは、患者の術前の消毒剤製品の製造業者に対し、開発中の製品および現在販売されている製品の両方について、これらの製品を無菌状態にする製造工程を検討することを奨励している。 FDAは、これらの製品の滅菌工程の開発に関する質問を歓迎し、術前の消毒剤製品の滅菌手段について、申請者や他の利害関係者と協力することを約束する。  

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執筆者について

脇坂 盛雄

経歴 1979年エーザイ株式会社入社、9年間、品質管理と21年間、品質保証を担う。
専門領域はGQP品質保証、注射剤及び固形剤の異物対応、品質リスクの発見と低減対応 ・医薬品/食品の表示校閲、製品回収リスク回避対策 ・逸脱/苦情対応、変更管理(一変/軽微変更)対応。品質保証責任者(品責)、統括部長および理事を歴任し、2013年9月末に退職。
現在は企業のコンサル・顧問を行う傍ら講演会講師、書籍執筆などを精力的に行っている。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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