いまさら人には聞けない!微生物のお話【第37回】

8. 微生物ラボにおける滅菌

微生物ラボにおける滅菌の操作としては、以下があげられます。

①    培地、希釈液などの調製
培地の調製時は、多くの場合湿熱滅菌(オートクレーブ)を行います。培地のラベルに滅菌条件が記載されていますので、その条件に従って滅菌を行います。多くの培地では121℃、15分が指定条件ですが、一部の特定菌用の培地では条件が異なるものもありますので、注意が必要です。
希釈液も特殊なものを除き、通常は培地と同条件で滅菌を行います。
 
②    熱で影響を受ける薬剤等の滅菌
ペニシリンなどの抗生物質や2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロライド (2,3,5-Triphenyl tetrazolium chloride, TTC) などの熱に弱い成分を培地に添加する場合は、その滅菌を行う必要がありますが、その場合はメンブランフィルターでろ過滅菌を行います。
また無菌の消毒用アルコールが必要な場合もろ過滅菌を行います。
 
③    微生物が付着している可能性のある機材や廃棄物
不要な微生物を完全に殺滅することを目的とした滅菌、たとえばコロニーカウント後の培地、陽性となったBI、不要バイオロジカルインジケータ、廃棄する保存菌株、微生物が付着している可能性のある器具類などの滅菌がこれに該当します。これらは廃棄や洗浄に先立ち、通常はオートクレーブで処理を行います。湿熱滅菌の項で説明しましたように、F0≧12 (121℃、12分以上)の条件がオーバーキルとされていますので、それ以上であれば、問題はないと思います。しかしこれらには、きわめて多くの微生物が存在していたり、また滅菌する際はオートクレーブ用のバケツや廃棄用の滅菌バッグに入れてオートクレーブ処理をすることが多く、これらには内部に空気が残留し、飽和水蒸気の状態にならない可能性もあります。そのため、通常は121℃、20分以上の条件で滅菌します。
 
④    金属製の小物
試験操作を行った白金耳、ハサミ、ピンセットなどの金属製の器具に付着した微生物を殺滅するためにしばしば行われるのが火炎滅菌です。これは、器具をバーナーの炎にかざし、加熱することで、微生物を殺滅させます。またバーナーの炎は、フラスコの培地を注ぐ際にフラスコの口を軽く焼く、試験管の保存菌株を移植する際に試験管口を焼く、などの際にも使用されます。
 
⑤    試験用ガラス器具、金属製器具類
微生物試験に使用する試験管などのガラス器具類、ピンセットやハサミなどの金属類、るつぼなどの磁器類、流動パラフィンなどは、試験に先立ち、乾熱滅菌を行う場合があります。乾熱滅菌は乾熱滅菌装置を用いて水が存在しない状態での加熱処理を行う滅菌方法で、一般的に160~200℃程度で処理を行います。日本薬局方の旧版では、160~170℃では120分間、170~180℃では60分間、180~190℃では30分間という条件が規定されていたため、現在でもそれが一般的な条件として採用されるケースが多いと思います。
エンドトキシン試験に使用する機材では、エンドトキシンの不活化を目的とした乾熱滅菌を行う場合があります。エンドトキシンの不活化には250℃の条件が推奨されているため、250℃で30~60分間程度の処理を行います。
 
⑥    苦情品の無害化処理
滅菌とはやや異なりますが、苦情品として返送された医療機器を、原因調査などのために無害化処理する際は、注意が必要です。通常のオートクレーブ処理では、プラスチック部品が変形してしまう場合があります。その場合は、液剤による無害化が行われます。
多くの場合、グルタルアルデヒド製剤あるいはフタラール製剤が使われます。
 
⑦    その他
 嫌気性菌の培養などで空気を遮断するために流動パラフィンを使う場合があります。その流動パラフィンを滅菌するには、乾熱滅菌を行います。これは流動パラフィンは液体ですが、水を含まないことによります。
 クリーンルームやクリーンベンチなどを使用していないときは、殺菌灯(紫外線灯)を点灯します。第二部で少しだけ説明しましたが、紫外線(波長260nm付近の紫外線)には微生物を殺滅する作用があります。しかし紫外線が直接照射されていない陰の部分には殺滅効果はありませんので、あくまでも直接UVが照射されている部分のみに有効です。

 

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