省令改正案検討の経験からみるGMP省令改正のポイント【第12回】
シリーズの最後として、文書及び記録の管理並びに原薬のリテストに触れます。
文書及び記録の管理(第20条)
説明はシリーズの第4回、データインテグリティガイダンス(PI 041)については第3回に掲載しましたので、今回は補足のみとします。データインテグリティ(DI)に対して課長通知では「医薬品製品標準書及び手順書並びに記録の信頼性」を当てており、国内ではこれがすなわちDIとなります。そこで、ALCOA+が有名ですが、ALCOA+はデータ品質を決定付ける指標の一つであって、それそのものがDIではありません。PI 041は、データライフサイクルにわたって(省令では「継続的に」)データに係るリスクをQRMの原則に準じてリスクコントロールし、その結果ALCOA+でいわれるようなデータ品質が保証された状態になっていることがすなわちDIであると述べています。パブコメにPI 041のDIの定義から第2項第1号~第3号を厚労省側で作成した旨が回答されています。定義のcomplete(完全性)に対応するために第1号で「欠落がない」こと、accurate(正確性)へは第2号で「正確な」こと、consistent(一貫性)では第3号で「不整合がない」ことを規定しています(それ以外の要素に触れていないのは不明)。省令は、責任者の設定にフォーカスされすぎているので、データガバナンスを示唆するものは読み取れませんが、課長通知にあるような「裏マニュアル、二重記録等の不正」の根本に対応するためには、PQSとともに経営陣によるデータガバナンスシステムの構築を企業は決断していく必要があるでしょう。当局の調査では、リスクに応じてPIC/Sガイダンスを参考に指導することが想定されます。なお、バリデーション等のいわゆるノウハウに係るような文書の保管期間を再確認する質問がありましたが、国内のGMP上の保管期間は第20条第1項第3号の規定以上でも以下でもなく、質問の趣旨からするとノウハウ的なものの保管期間はむしろ企業として知識をどう管理していくかという側面にかかっており、単に第20条に対して当局から指摘を受けないように対応するというよりは、製造プロセスの稼働性能及び製品品質の製品ライフサイクルにわたる保証やそれ以降の将来にわたっての次なる製品に対する保証を考慮した上で判断していくべき問題です。
原薬たる医薬品の製造管理及び品質管理(第2節第21条、第22条)
原薬の条で、品質管理(第21条)と文書及び記録の保管(第22条)のリテストがらみの内容について触れます。第21条第1号では参考品の保管期間として、第22条第1号では文書及び記録(教育訓練を除く)の保管期間として、いずれもリテスト日が設定されている医薬品にあってはリテスト日又はその製造所からの出荷が完了した日から3年間のいずれか長い期間となっています。これは、ICH Q7-IWGが作成したQ&A⑴に関連します。Q&Aの6.1(文書)及び11.4(参考品)ともその保管期間について回答していますが、背景として同じことをいっています。Q7では、文書、参考品とも「出荷が完了してから」3年(以上)保管することとのみ書かれていて、省令での規定の方が現在の技術水準を考慮した表現になっていると考えます。
なお、「リテスト」には時に誤解があり、ICH Q1Aに示される定義を表すと図a)のようになりますがb)の認識も一部でいわれています。製造日(M)からリテスト日(R)までは安定性データで保証されているので、受入試験後はそのまま使用できますが、リテスト日を越えると当局に提出された正式なデータの保証がないため、リテストが設定される物質はそもそも物性が安定しているという前提で、再試験後速やかに使用するとされており、b)の解釈ではありません。再試験~使用は規格に適合する限りこれを続けることができるとされています。2016年4月にICH Q7原薬GMP Q&A説明会を開催し、EU当局やFDA、APIC(Chair)の方々を招いて議論したところでは、「速やか」とは本質的には「使用直前」ということで、ずっと置いておくことは想定されていませんでした。そうはいっても短期間に頻繁に使用前に試験することに対する現実面もあり、実際は1箇月などの運用は何例かあるようですが、期間が長い場合には根拠を確認されるでしょう。また、理論的にはリテスト日を越えて10年以上など長期であっても規格に適合すれば延々と可能なわけですが、これも数箇月で在庫がはけることを想定していたということでした。なお、これは製剤製造所側が考慮すべき事項となります。ちなみに、原薬の原料に対してはQ7の縛りはないため、どのような設定であっても監査では基本的に関知しませんが、Q7 Q&Aでは設定の根拠は必要とされています。
以上のことを踏まえて、省令に準じて原薬製造所における参考品や文書の保管期間を解釈すると図c)のようになります。原薬製造所は、当該原薬バッチが全てはけて(D)から3年間は参考品や文書類を保管する必要が生じます(グレー矢印)。理論的にM~Dの期間は流動的で管理が難しいことになりますが、Q7 Q&Aに記載されるように、これは当該原薬が市場(原薬メーカーにとっての市場)にあるだろう期間を想定しており、本質は市場にある原薬に問題が生じた場合には支障なく対応することを求めています。
⑴ 原薬GMPのガイドラインに関するQ&Aについて, 厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課事務連絡, 平成28年3月8日
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