医薬品,医療機器滅菌の新しいトレンド“放射線滅菌”【第3回】

 国内において、放射線滅菌は多くの医療機器で実施されるようになりましたが、無菌医薬品ではまだ事例が少ない状態です。その原因は、放射線が製品に与えるいくつかの影響が大きいと思うのですが、海外では放射線による滅菌の必要性から多くの事例が報告されています。数十年前、医療機器では、放射線による影響のある材料に対し適切な対応をすることで放射線滅菌が可能になりました。最近になって、医薬品についても放射線による成分分解や性状変化に対応し、薬事承認を取得した製品があります。今回は医薬品の放射線滅菌に焦点を当て、何が問題で、また、どのようにすれば可能になるのか、海外の事例を含め紹介します。


1.医薬品の滅菌の必要性
 滅菌法はGMPにおける微生物汚染対策に重要な役割を果たしている方法で、日本薬局方やISO等の規格、基準に収載されています。今までに、医薬品など薬事関連製品の微生物汚染事故は多数報告されており、患者や抵抗性の低い人に対するリスクを考慮すると、製品の無菌化を行う滅菌処理工程はGMP上重要な工程になります。特に、充填または包装後の最終製造工程において滅菌処理を行うことは、製品の無菌性保証をより確実なものにします。日本薬局方では、参考情報「最終滅菌法及び滅菌指標体」で、最終滅菌法として、加熱法、照射法、ガス法があり、最終滅菌法を適用できない液状製品の滅菌にはろ過法を用いるとしています。これは、ろ過法単独では滅菌が求める無菌性保証水準(SAL)10-6以下を保証することが困難なためで、可能であれば加熱法、照射法、ガス法を使用しSAL10-6を保証すべきとしています。ところが、現状では無菌医薬品の一部で湿熱滅菌が行われているものの、多くは無菌操作法,ろ過滅菌法により工程内で無菌性を保証する方法が取られています。
 無菌医療機器に対する放射線滅菌は、1958年米国において手術用縫合糸(Catgut)に電子線滅菌が初めて導入されました。その後1960年代になって、透過力の優れたガンマ線滅菌が登場し1)、現在は、国内の無菌医療機器の物量では電子線/ガンマ線滅菌合計で半数以上を占めています。当初、医療機器の放射線滅菌導入において一番大きな問題は材質への影響でした。放射線照射による高分子化合物(ポリマー)の物性低下、着色、溶出量増加は、医療機器の機能と安全性に影響を与えました。特に、医療機器に広く使用されているポリプロピレンへの対応は必要とされていましたが、原子力研究の成果から放射線対応のポリプロピレンが登場し、その後、放射線滅菌は飛躍的に増加しました。
 一方、無菌医薬品については、本来製剤のリスクが高く、また製剤及びその成分が多種多様で、特に、ビタミン、アミノ酸、糖、酵素などを高温で滅菌処理を行う際の成分濃度の低下や成分の変質、及び容器・包装への影響などにより、従来の湿熱滅菌法では、均一かつ安定的に滅菌処理をすることが困難になる場合があり2) 、また、エチレンオキサイドによるガス滅菌法はエチレンオキサイドの残留毒性や化学反応による安全性の問題があります。これらの問題から、無菌医薬品の製造には加熱法、ガス法ではなく、ろ過法、または無菌操作法が広く利用されてきました。ところが、最近になって、放射線による影響を緩和する処方及び滅菌法が開発され、加熱により成分分解する製品でも放射線による分解が少なく、滅菌処理が可能になりました。本稿では、医薬品の中でも特に放射線滅菌が困難であった液体製剤について、医薬品添加物による添加滅菌法、及び低温状態での滅菌法について説明します。また、少し前の資料になりますが、海外の放射線滅菌の事例について紹介します。

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます