医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第59回】
データの信頼性
今まで実際の評価方法についてお話してきましたが、少し趣向をかえてデータの信頼性について述べたいと思います。
データの信頼性って言っても、真面目に実験して、記録しているのでウソはないよと実験者は思います。事実、私もずっとそう思ってきました。受託試験で試験したデータも、研究として取得したデータもウソを記すことなどある訳がないので、疑われると心の中では、「何だよ。信用できないなら帰ってくれ。」くらいのことを思っていました(ただ、表立ってはおっしゃる通りくらいのことを言って迎合していましたが…)。
申請資料の信頼性の基準に関する法令があります。「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則」(昭和三十六年厚生省令第一号)、以前は薬事法施行規則と呼ばれていた省令ですが、今も脈々と改正されて存在しています。この中の43条に、データの信頼性に関する記載があります。この条文は医薬品に対するものですが、医療機器にも該当する旨が第61条に記されています。
一は「正確性」について述べられたものです。二は完全性/網羅性、そして、三は「保存性」について示されています。
簡単に言うと、正確性は文字通りで、ウソがないことはもちろんですが、それ以外にも、機器を用いて測定したデータであればその機器が校正されて正確な測定ができることが担保されているとか、動物を用いた試験データではその動物が病気でないとか、ソフトウエアを利用したのであればそのソフトウエアがきちんとバリデートされたということを保証できるかということです。
完全性/網羅性のうち、完全性については、昨今データインテグリティ(Data Integrity, DI)として話題に上ることが多いので、あらためて詳細をご説明したいと思いますが、要はデータが不適切に取り扱われることがないことを保証することで、改ざんされたり、一部が欠損したり、後で照合したら合わなかったりすることがないことを担保することかと思います。網羅性については、都合の悪いデータを破棄したりチャンピオンデータだけで評価したりするのではなく、得られたデータをすべて用いて評価することが求められるということです。また、途中で評価方法を変えてしまうことも問題で、例えばある統計学的検定方法で、有意差があったので、有意差がでない方法に変更するということも意図的に結論を変えることになりますのでよくありません。ただ、どこで結果を破棄したとか、統計学的検定方法を変えたとかは分かりにくいので、最初に試験計画書(Protocol)を作成し、それに基づいて試験を行うようにします。「最初に決めたとおりの方法でないと絶対にダメなの?」と疑問をお持ちになるかもしれませんが、そんなことはなく、試験計画の変更書にて、変更点や変更の理由等を明らかにしておけばよいのです。もちろん理由として、ある統計学的検定方では有意差が見られたためとすると妥当な変更とは言えませんので、のちのち苦労することになりますが、網羅性は少なくとも満たしているのかもしけません。
最後の保存性は承認までは捨てるなよということですが、それ以外でも、湿気の多いところに紙の記録を置いていたためカビだらけでデータが見られないとか、誰でもアクセスできるロッカーに入れていたのでいつの間にか紛失していたとか、電子データが保存されたハードディスクが壊れてなくなったなどということがないようにしなければなりません。
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