GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第64回】

教育訓練

1.ピグマリオン効果とゴーレム効果

ピグマリオン効果はアメリカの教育心理学者であるローゼンタールが唱えたもので、小学生と教師を対象にあるテストを試みています。あらかじめ教師には「今後成績が上がる子が分かる」と伝え、適当に選んだ生徒のテストの結果を「成績アップが期待できる生徒」「期待できない生徒」に分けて提示。教師は「成績の向上が期待できる生徒」に期待感を込めて接しました。すると、結果的に生徒の成績がアップしたのです。ローゼンタールは、相手に期待をすることで、相手はその期待に応えようとする力が働くと考えたのです。ゴーレム効果は相手の期待感がなく能力を発揮できない、または低下してしまう現象のことで、ピグマリオン効果の逆です。


 期待されると人はその期待に応えようとするものである。「褒めて育てる」のと同様なことである。仕事に対するモチベーションを高め、自発的に係わろうという姿勢につながる。逆に、期待もされず、叱られることで、やる気が失せてしまうことになる。現代社会は、過ちに対して、誹謗中傷し、責めることが多くなっている。職場での人間関係に悩む方も多い。パワハラ等のハラスメントも問題になっている中で、業務をいかにして円滑に進めるかが重要なことである。従業員に対して、手順書や指図通りに働けと頭ごなしに言っても業務は進まない。業務が捗るよう各従業員の精神面も含めた職場環境を整えることが必要である。従業員のモチベーションを上げるために、ピグマリオン効果を利用し、自身が期待されている、その期待に応えようとする気持ちにさせるかが重要である。県庁勤務のとき、先輩や上司からひとつ上の職責になったつもりで業務に当たるように言われた。これも、今考えると、ピグマリオン効果と言えよう。
 最近の若者は、出世欲がなく、管理職などのマネージャーになることを嫌う傾向があると聞いた。多分、責任逃避ではないかと思うが、自信がなく、職務を全うできない不安があるのではなかろうか。しかし、責任者などの上司が責任を負わず、現場に責任転嫁している状況はないだろうか。GMP違反事例で、品質システム等が適切に運用できない旨の指摘がされている。適切に判断ができず、現場の責任に転嫁している実態が見えてくる。GMP違反が頻発する中、責任者が判断をせず、経営者など上司に判断を仰ぐことも増えているようにも感じる。ヒューマンエラーだと言って、その評価を適切にできず、手順書の読みにくさや不適切な指図が原因にも関わらず、教育訓練不足にすることが多いと思われる。現場の管理について十分把握している責任者による業務管理を行える職場環境が必要である。そして、その上司は、その責任者の判断が正しいものであるかを常に評価できる技能が求められる。互いの責任、役割を認識した関係を樹立して、責任のなすり合いが起こらない職場環境をつくらなければならない。
 期待されていることを従事者に実感できるようにするためには、どのようなことが必要であろうか。これまでの業務の遂行状況や教育訓練の技能の習得状況を適切に評価をすることが重要である。査察等で多くの製造所の教育訓練の記録を見てきたが、スキルの習得について、適切な判定がされていないように感じた。そもそも、教育訓練において、アンケートすら実施していない施設は多い。座学を実施しても、アンケートもテストもせず、理解したとA判定をして、その理由を尋ねても、明快な回答ができないケースは多々ある。そのため、ヒューマンエラーが発生しても、その作業者がその技能を習得していたのか確認できないのである。これでは、作業者が期待されていると実感できるわけがなく、作業のミスが出るのは当然である。日々の教育訓練において、個々の作業者を適切に評価をし、業務に邁進できる職場環境を整備するために、マネージャーが為すべきことは多い。また、マネージャーに対しても適切な評価がされなければならない。

 

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