知的生産性を革新する組織構造・空間構造【第1回】
【第1回】研究開発は何故重要か?
はじめに
研究開発施設を創ることは、いかに早く研究成果を出すかということである。
研究施設の新設あるいはリニューアルを経営者に決断させるためには、研究開発がいかに重要なのか、その生産性の革新をどのように行い成果を出すのかを理解していただくことが必要である。事業分野に依るが、研究開発の成果をそれほど信用していない経営者は多くいる。本稿では、そのような経営者に対し、成果を目に見えるようにする方法のひとつをお伝えしたい。なお、研究開発などの知識創出の生産性を知的生産性という。
1.研究開発は何故重要か?
1987年、成長理論でノーベル経済学賞を受賞した、MIT教授ロバート・ソロー博士は、その論文「技術の変化と集計的生産関数」の中で、経済に成長を齎す要因として、古典派経済学で主張されている設備投資は、それほど大きくないことを示し、資本財の増加よりは、研究・技術開発の成果である新知識のほうがはるかに大きいことを理論的に証明した。即ち物・金より人・知識ということである。
新知識が経済に齎す影響は経済成長率の8分の7、百分率にすると87%強になる。ソローの計算が概ね正しいとすると、研究開発の成果が産業を発展させ経済を発展させるといっても言い過ぎではない。新しい知識が明日のビジネスである。研究開発の成果がなければ企業や都市、国家は必ず衰退するということである。
バブル崩壊後、経済成長がゼロの日本の研究・技術開発の生産性はどうなのか?
研究開発費と経済成長を比べることで、研究開発の生産性を量ることができる。
2009年の日本の科学技術白書によると、1980年~1995年の日本、アメリカ、EU15カ国の研究開発費は年平均して10兆円、20兆円、15兆円ほどである。1980年~1995年までのGDPの成長は、」年平均して日本42.7兆円、アメリカ46兆円、EU15カ国が53.2兆円である。
ソローの理論によれば研究の成果とGDPの成長は比例している。
各国のGDPの成長を各国の研究費で割ると各国の研究開発の生産性が比較できる。その数値は、日本が4.2、アメリカが2.3、EUが3.5である。この期間の日本の研究の生産性は、アメリカの約2倍、EUの1.4倍となる。
この時期はジャパン・アズNO1といわれた。
その後2007年までの日本の研究費の平均は16.5兆円、アメリカが28兆円、EU15カ国が19.6兆円である。前と同じようにGDPの年平均の成長は、日本は-3.5兆円、アメリカは69兆円、EUは81.4兆円である。研究費で割った指数を見るとEUは4.2、アメリカは2.5であるが、日本は-0.02でマイナス成長になっている。
研究開発の成果の経済に対する貢献度はゼロ以下ということになる。
さらにこの間の日本の一人当たりの研究開発の出費は世界一である。失われた10年といわれた。その後10年も同じ状況が続き、失われた20年になった。
何故か。個別的にみれば研究成果を何も出していないということは考えられない。
基本的に研究開発の方向や概念が違っているのではないか。
研究の方向と概念の違いをアメリカと比較すると、1980年代前半のアメリカの非製造業分野の研究費は7%であった。それが88年から急速に伸び2001年に38%になっており、現在はさらに伸びている。それに対し、日本の非製造業分野の研究費は少しずつ増えているが全体の12%で大きく伸びてはいない。
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