ラボ・生産設備における省エネルギー化【第10回(最終回)】
1 はじめに
前回までGMPおよびGLP施設に関する省エネルギー手法に関し説明してきましたが、最終回の今回は省エネ対策の推進手法に関して説明したいと思います。
2 組織の構築とPDCAサイクルの推進
省エネルギー対策を推進するには、(1)担当部門及び責任者を定め(2)要因を分析、(3)目標計画の作成、(4)対策の実施、(5)結果検証までの一連の作業について着実に遂行する事が重要です。また、施設の状況が毎年変化していく状況下では下図のようなPDCAサイクルを推進する事が目標達成の近道ですし、かつ継続的に、この省エネサイクルを維持していく事が肝要です。
3 省エネルギー対策の計画
PDCAサイクルの最初の部分である計画(PLAN)部分に関し述べます。
3.1 現状分析
項目の選択を粗々の状態で決定したのち、現状の運転状態を種々の角度から分析する作業を行います。
(1)全体の用役需給把握
(a)現状エネルギー使用量の集計及び見える化
抽出選択した項目に対し以下の作業を行います
年間使用エネルギーを測定値記録に基づきグラフに表わします。また年間稼働時間、負荷率、平均値、最大、最小値、2次エネルギー消費量も合わせて算出し、グラフの一部として表示します。
注意点としては、時刻歴の整合性の確認、軸レベルの倍率調整の適正化が必要です。
(b)エネルギー分析図の作成
パレート図の作成
エネルギー使用量の多い順に並べ、比率を記載する。
エネルギー分布ツリー図の作成
エネルギー毎に用途と使用割合を表現する。有効利用、損失を記載することで対策の有効性が表示できる。エネルギー使用量、または金額の多い順からパレート図を作成し検討順序の参考とします。
(2)用役単価の決定
エネルギー単価は最近大きく変動しています。過去に採算的に無理であるものでも投資対効果が改善しているもありますが、オイルシェールの開発以来、なかなかエネルギー単価を予測することは困難に思えます。過去3年程度の平均値を採用もしくは合意できる価格とします。また水の単価も押さえておく必要があります。なぜなら冷却水等の使用量の多い施設では蒸発、メークアップ水などで過剰な蒸発、排出をしている場合もあるからです。
(3)稼働時間の決定
稼動時間は採算性に大きく影響を及ぼし非常に重要な要素です。GLP、GMP施設は動物飼育室、クリーンルームを保有しているせいもあり稼働率は安定していますがバルク製造施設などではバッチ(回分操作)運転があるので注意が必要です。必ず検討ではオーナーの了解が必要となり3年分程度の平均値を採用します。
(4)負荷率の把握
稼働時間は長いものの負荷率が低いものもあります。例えば、冷却塔などは外気の変動によりファンの負荷率がかなり低くなります。プロセスなどでもこのようなケースもあるので注意が必要です。これも3年分程度の平均値が必要となりますが手に入らない場合はオーナーの了解を得ておく必要があります。
(5)分析作業
(a)事象の書き出し
気付きの項目をランダムに書き出します。フリーに問題点を挙げ、共通項目に分類し行う。単なる気付きに方向性を与えることとなります。
(b)要因分析図(フィシュボーン)の作成
エネルギー原単位を低減するため気付きを含めた項目をすべて要因分類し図で表すことが重要で、これにより隠れた対策が見えてくる場合があります。
(c)事象の明文化(ステートメント化)
現状を分析する作業では、最初に問題の所在を抑え、錯綜し混沌とした状況から具体的な命題を起こすことで、何をどう分析しどこから手を付けるかを決定することが重要です。これは抽象的であいまいな事柄をいかに具体的に処理出来る課題に変換することを示しています。以下に示す4W1Hの分類表現法を利用し事象に具体性を待たせることが出来ます。
何が(What)
どこで(Where)
いつ(When)
どうして(Why)
どの程度(How much)
3.2 項目の選択
項目選択を行う場合についての考え方を述べます。
(1)チェックリスト等からの項目絞り込み
項目の選択には一般的にエネルギー消費量パレート図などを作成し、使用量の多い項目から順に要因を探し出すことから始めます。しかし昨今の大多数の施設ではこの手法による検討はほぼ済んでいるのが現状でしょう。
そこで今回はキーワードから課題意識を設計の原点まで遡る作業より省エネ対象項目の発掘をしたいと思います。経験の違いなどから効果の高い項目を見落とす場合もありますのでチェックリスト、過去の事例などを参照しながら項目選択を行い、実際に照らし合わせながら項目選定をすることも有効でしょう。また項目採用するに排除しなければならないものもあります。無駄な検討をしないためにもリスク分析を予め実施しながら検討を進めます。実際の数値が施設を維持するのに最適で無駄のないものであるか、なぜこの値なのか、本質的な数値は何であるかなどを追求して下さい。
項目の選択には上記のようなキーワード、チェックリスト、事例集など客観性をもつ作業型と、もう一つ気付きによる直感型があると思います。ここで項目発掘を進めるために日常的でかつ複合的に問題を解決する手がかりとなる現場、データ分析での気付きに関する問題に触れてみたいと思います。
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