新・医薬品品質保証こぼれ話【第11話】
知識と意識
“知識と意識”。この二つの言葉はしばしば対比して取り上げ論じられます。何ごとを成すにもまずは“知識”が必要ですが、知識だけでは重要な役割が果たせず、そこに求められるのが“意識”です。この点においてこの二つは常に併せて考える必要があり、医薬品の製造や試験検査を的確に進める上においても同様に留意すべき大切なことの一つと言えます。
先ず“知識”についてですが、GMP省令において教育訓練が要件とされていることからも分かるように、医薬品製造を適正に推進するために必要となる“知識”を習得することは大変重要です。しかしながら、GMPの教育訓練については多忙な日常の中で形式的に済まされている企業が少なくないと思われ、実効性の確保、有意義な教育訓練の進め方は今も管理者サイドの重要課題と考えられます。実効性の確保には教育訓練システム(仕組み)の構築だけでなく、職員の皆さまが主体的に取り組める仕掛け、言わば、演出といったものも時に必要かも知れません。
知識の習得は、本来、主体性を基礎とした自学自習が基本であり、効果的に知識を身につけるためには自主性、主体性を育むことが重要であることは改めて言うまでもありません。“学力”という言葉に象徴されるように、“学ぶ力”こそが、物ごとをより正確により深く理解するために大切であり、その大本に求められるのが“主体性”ではないでしょうか。この点において、主体的に取り組める人材をいかに育成するかということが、その企業・組織の発展の鍵を握っていると言っても過言ではないでしょう。
医薬品の品質保証に関して言えば、GMP省令に規定されている各要件の意義を自らの業務に照らし理解し、それを実務に活用するといったことに関し、いかに主体的に取り組めるかといったことがポイントになるでしょう。ちなみに、GMPの領域においては、知識と同様に製造や試験検査に必要となる“技術”も重要であり、上に述べたことは“技術”に関しても言えることです。
次に“意識”に関して話を進めます。冒頭述べたように、何ごとにおいても“知識”だけでは重要な役割を果たすことができず、“意識”が伴ってはじめて事を成すことができます。GMPにおける知識や技術は言わばツールであり、GMP要件の目的や意義を理解し、それらを意識して業務に取り組むことで知識や技術が生かされ業務を的確に推進することが可能となります。“意識すること”は深く考えることを可能にし、難題の解決や業務改善などを進める上で求められるアイデアや工夫といったものにも繋がっていきます。
“意識”はある意味において“気づき”に置き換えることができます。医薬品の製造や品質管理の場においては“品質意識”という言葉がたびたび引用されます。品質意識とは品質に関する“気づき”、つまり、品質を確保する上において必要となる事柄に“気づく力”と解され、このことは医薬品の品質保証を進める上で大変重要と考えられます。例えば、製造過程における中間製剤の物性の変化や、試験に際する抜取り試料の色や臭いの異変などに気づくかどうかが、その後の重大な品質問題を回避できるかどうかに関係するといったことも少なくありません。
また、製造業務に際しては、製造機器の稼働時の音の異変に気づくといったことも大切です。例えば、摺動箇所の音の異変に気づくことが、そこから発生する金属異物の製剤への混入防止に繋がる、といったことも考えられます。この点から、製造作業や設備機器の調整・管理に携わる方も、業務に必要な“知識や技術”に加え現場の様々な異変に気づけるよう“意識して業務に取り組む”ことが求められます。つまり、“問題意識”持って日々業務を行うことが重要であり、このことは品質保証を進める上の鍵になるのではないでしょうか。“問題意識を持つ”とは、それぞれの業務を進める際に想定される問題(リスク)を意識することであり、それによって様々な潜在リスクに気づくことが可能となり、ひいては重大な問題の未然回避に繋げることもできます。
以上、今回は“知識と意識”をテーマにとりあげ、医薬品の製造や試験検査業務に関連づけて様々な観点から考察を行いましたが、上の述べたことは、勿論、この領域に限ったことではありません。特に、“意識すること(気づき)”は、日常のあらゆる場面で重要です。“強く意識してことにあたる”ことは“深く考える”ことに通じ、深く考えることにより物ごとを合理的に進めることや、論理性のある説明を導くことが可能となり、他者から見ても“筋が通っている”といった状況をつくり出すことができます。
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