新・医薬品品質保証こぼれ話【第10話】

システムの機動性と運用の柔軟性

2020年の初めに日本で初めて新型コロナウィルス感染者(以下、「コロナ感染者」)が確認されて以降、感染者数(PCR検査陽性者)の総数がカウントされ続け、その人数の増減に国民が一喜一憂するという構図が常態となり三度目のお盆を迎えました。このコロナ感染者に関する総数をはじめとする情報を一元的に把握し管理するためのシステムとしてHER-SYS(新型コロナウィルス感染者等情報把握・管理システム)が開発、2020年5月末に運用が開始され、不具合や使い勝手の解消・改善を繰り返し現在に至っています。しかしながら、入力の手間が診察に影響するなどの意見や、感染者総数の把握自体に異議を唱える向きが少なくないことなど、問題を抱えながらの運用となっているのが実情のようです。

“システム”とは、本来、それを使用・運用することにより日常の業務が効率化されるだけでなく、関連の情報やデータを相互に連関させることにより、より高度なアウトプットを実現するための仕組みと言えます。近年、多くの業務がコンピュータ化されていることから、コンピュータ化されている状態自体を“システム”と解釈する向きも多いと思いますが、“システム”は必ずしもコンピュータ化することを要せず、その業務に必要な要素から構成される“仕組み”そのもの、というのが本来の理解かと思います。しかしながら、昨今のIT(Information Technology:情報技術)の進展により多くの業務がコンピュータ化されている現状から、“システム”を議論する場合は自ずとコンピュータ化されたシステムを想定するのも、今では当然のことでしょう。

システム構築に際し重要なポイントを二つ挙げるとすれば、「目的・意義の認識」と「機動性の確保」ではないでしょうか。HER-SYSに関して言えば、感染対策の軸となる“感染者数の波の高さと増減傾向をリアルタイムで把握することによる収束時期の予測”、及び、“感染者の重症化傾向の早期把握による救命”が主たる目的と考えられ、このシステムの意義は誰もが理解できます。しかしながら、感染者情報のシステムへの入力が負担となり、本来の診察や治療の時間が確保できないとなればシステムの機動性が問われることになります。これに関しては、すでに入力項目の削減など運用に際する負荷を少なくするための措置がとられてきていますが、なお、同様な意見が聞かれるのが現状のようです。

これへの対策の考え方としては、このシステムの目的と意義を原点に立ち返って確認し、現状の感染状況から見て、今なおこのシステムの活用を必要と判断するか否かがポイントになると思われます。活用の継続が必要と判断するのであれば、さらなる運用方法の見直しやより機動性に優れたシステムへの改良などが必要かも知れません。一方、ウィルスの毒性などから判断して、この感染症はもはや“通常の風邪”に近似すると判断し、季節性インフルエンザと同じ5類感染症(感染症法:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に分類変更して対応するのが妥当と判断するのであれば、当面は、念のため、高齢者と基礎疾患のある感染者に限定してこのシステムを活用するといった考え方もあるでしょう。

ただ、気になるのは、現在のHER-SYSの活用に際するデータ入力の負担の軽重の全体像をもう少し詳しく把握する必要があるのではないかという点です。つまり、規模の小さな病院では医師自らの入力が多いと思われる一方、大学病院などでは医師以外のスタッフの入力サポートが得られ、診察等への影響も比較的小さいことが想定されます。このあたりの状況をもう少し詳しく確認・分析した上で対応を考えないと本末転倒になりかねず、入力負担の声を重視しその軽減のために大胆な簡略措置をとると、これまで積み重ねてきた感染対策に関するノウハウの多くが無駄になるだけでなく、未だ本質が解明し切れていないこのウィルスとの闘いに禍根を残す可能性も否定できません。
 

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます