Process Validation Stage 3に対する取り組み -洗浄バリデーションを例に-

 2011年FDAは、それまでのプロセスバリデーション(PV)の考え方を大きく変更するガイダンス(それまでは、ガイドラインであった)を発表した1)。新たなガイダンスのポイントは、それまでの3ロットの連続製造によるプロセスの検証から、①プロセス設計の段階(Stage 1)、②設計されたプロセスが実際の製造現場で問題なく機能することを検証する段階(Stage 2)、③検証されたプロセスが、製品上市後の生産段階でも設計通りに機能していることを検証する段階(Stage 3:Continued Process Verificationと呼ばれており、製品が製造中止となるまで続く)と、役割りごとに3つの段階に分類し、PVを製品のライフサイクルを通した取り組みとした点にある。ちなみに、FDAは、Stage 3の段階をContinued Process Verificationと呼んでいるが、EMAではOngoing Process Verificationという言葉が使われている2)。この2つの単語の意味の違いはともかく、ここでは洗浄バリデーションを例にPV Stage 3の取り組みについて考えてみたい。なお、FDAはガイダンスの中でStage 3について、次のように記載している。

Stage 3 ‐ Continued Process Verification(FDA Guidance for Industry Process Validation: General Principles and Practicesからの抜粋)
 3 番目のバリデーション段階の目標は、商業品製造中にプロセスが管理状態 (バリデート済みの状態) に維持されていることを継続的に保証することです。 この目標を達成するには、設計どおりのプロセスからの計画外の逸脱を検出するためのシステムが不可欠です。 CGMP 要件の遵守、特にプロセスのパフォーマンスに関する情報とデータの収集と評価により、望ましくないプロセスの変動を検出できるようになります。 プロセスのパフォーマンスを評価することで問題が特定され、プロセスを制御し続けるために問題を修正、予測、防止するための措置を講じる必要があるかどうかが決定されます (§211.180(e))。 製品の品質に関連する製品およびプロセスデータを収集および分析する継続的なプログラムを確立する必要があります (§ 211.180(e))。収集されるデータには、関連するプロセスの傾向と、入荷する材料やコンポーネント、工程中の材料、完成品の品質が含まれている必要があります。データは統計的に傾向を分析し、訓練を受けた担当者によってレビューされる必要があります。 収集された情報は、プロセス全体を通じて品質特性が適切に管理されていることを検証する必要があります。(下線は著者による )

 多くの医薬品は、共用ラインで製造されており、さらに高活性医薬品の増加などからも、洗浄・洗浄バリデーションによる交叉汚染対策は、製造現場における最も重要な取り組みの1つとなっている。そして、規制当局の査察でも必ずその取り組みが質問され、最近ではStage 3の取り組みについても質問を受けるとのことである。この洗浄バリデーションであるが、多くの場合、“ワーストケース”に基づいて実施されるが、この“ワーストケース”は製品の特徴・装置・製造環境・洗浄手順・洗浄作業者など複数の要因が関係している。さらに、こうした状況は日々変化している。そのため、Stage 2で検証された洗浄手順が、継続して維持されていることの検証は、消費者視点からも極めて重要な取り組みということができる。では、これにどう対応するかであるが、洗浄プロセスが妥当かどうかは、洗浄後の残留物・残留量で評価するということになる。この残留物・残留量は、洗浄プロセス設計の段階におけるCQA(重要品質特性)であり、これが設計通りの残留量(残留限度値の規格に適合しているかどうかではない)となっていることは、とりもなおさずバリデートされた洗浄プロセスが継続して維持されていることの証し、と考えることができる。
 次の問題は、“継続している”ことを、どうやって確認するかである。FDAのガイダンスをそのまま読み取るならば、毎ロット洗浄後の残留量を評価するということになるが、この毎ロットという表現はガイダンスの中にはなく、3ロット毎や5ロット毎など、いろいろな意見がある。また、関係する論文3)も発表されているので、参照頂きたいが、ここでは毎ロットとしなくても、それに匹敵する(統計的な取り扱いや傾向分析ができる)頻度が求められていると考えることにする。とすると、それを実施するためのコストや時間などが、製造現場では大きな負担・検討事項となり、それにどう対応するかが次の大きな課題となる。

 洗浄後の残留物で最も管理が必要なものは、投薬される患者に対する安全性に影響を与える物質ということになり、結果として残留する原薬の評価ということになる。そして、その評価のためにHPLCなど特異性を有する分析法が採用される場合が多い。しかし、HPLCの場合、分析法の開発や前処理・測定時間等の問題から、継続的な測定が求められるStage 3での使用には適さないとも指摘されており、その代わりにTOC(Total Organic Carbon)分析法の利用が提案されている4)。Gran View Researchの資料5)によるとHPLCよりも運用コストが40〜80%少なく、分析時間が70〜80%速くなると言われている。TOCでの評価は、原薬を含む“ワーストケース”となるが、それ自体問題となるものではなく、著者は製造現場の状況やコストなどの視点から、このTOCが洗浄プロセスStage 3における評価法して極めて有効な手段ではないかと考えている。このTOC分析に使用する装置の例として(株)ハック・ウルトラ社のQbD1200+(写真)を紹介する。この装置の測定レンジは、0.4 ppb – 100 ppmで、検出限界は、0.4 ppbと、Stage 3における残留性評価法として十分な感度を有している。(関連資料や製品に関する情報の要望があれば直接同社に照会されたい。)

 2023年8月31日ICH Q9(R2)ガイドラインが正式に通知されたが、このガイドラインのポイントの1つは知識管理の重要性を指摘している点にある6)。著者は、この知識管理の基となる情報は、このPV Stage 3の取り組みの中からもたらされるもので、そこで得られるデータはQuality by Designに基づく洗浄プロセス開発における主観性の最小化に大きく貢献するものと期待される。そのためにもしっかりとしたStage 3への取り組みが求められているのではないだろうか。今回は、洗浄バリデーションを例にPV Stage3の取り組みについて紹介したが、もちろん他のプロセス開発においても同様の取り組みが求められている。

 

参考資料:

  1. FDA、Guidance for Industry、Process Validation: General Principles and Practices 、January, 2011
  2. EMA, Guideline on process validation for finished products - information and data to be provided in regulatory submissions, 21 November 2016
  3. Richard Kettlewell, Continued Process Verification, NSF Wthite Paper JANUARY 2019. https://d2evkimvhatqav.cloudfront.net/documents/nsf_pb_white_paper_continued_process_verification.pdf?v=1594929792
  4. S.Ferretti, Continued process verification methods in cleaning validation. 
    https://www.fedegari.com/wp-content/uploads/2019/03/Continued-process-verification-methods-in-cleaning-validation.pdf
  5. Gran View Research, Pharmaceutical Cleaning Validation Market Size, Share & Trends Analytical Report By Product Type (Small Molecule Drug, Proteins, Peptides), By Validation Test, By Region, And Segment Forcasts, 2021-2028.
    https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/pharmaceutical-cleaning-validation-market-report
  6. 厚生労働省、品質リスクマネジメントに関するガイドラインの改定について、薬生薬審発0831第1号令和5年8月31日

 



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